マイナ保険証
政府は、2022年6月に「骨太方針2022」を閣議決定し、デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資として、マイナンバーカード普及の取組を推進すること、また、同月に閣議決定された「デジタル田園都市国家構想基本方針」ではカード取得者に最大2万円の「マイナポイント」を付与し、地方交付税の算定や一部の交付金の申請条件にカードの普及率を加えること等を示した。さらに2023年4月には「マイナンバー法等改正法」が成立し、健康保険証は2024年秋に廃止される方針となった。
5月17日に行われた参議院特別委員会の参考人質疑で、保団連の竹田副会長が意見陳述をし、オンライン資格確認の運用を開始した医療機関の多くでトラブルが発生したこと、医療介護現場の実態、地域医療を支えた医療機関が閉院・廃院に追い込まれていること等を報告した。調査結果によると2023年3月だけで廃止の届け出を出した医科・歯科の保険医療機関は1103件あり、「地域医療崩壊を加速させている」と指摘。3月にオンライン資格確認システムを利用した1億1804万件のうち、マイナ保険証を利用したのはわずか2.3%(約267万件)で「オンラインでの資格確認においてマイナ保険証は必要ない、というのが医療現場の実感である」と訴えた。又、高齢者施設では暗証番号の管理を含めた紛失責任が重いため、「マイナンバーカードを管理できない」と答えている。
マイナ保険証の本格運用が始まった2021年10月以降、別人の情報が紐付けられたケースは、厚労省の集計で約7300件とされ、保団連の全国調査では、「無保険扱い」の患者に医療費を10割請求した例が、1291件報告された。
現在、新聞やTVでも様々なトラブルの発生が報道されるようになったが、健康保険の資格情報が確認できない場合の対応として、患者が一時的に医療費を10割負担しなければならないことに批判が集まったため、政府は「オンライン資格確認等システム運用マニュアル」上で、対応を「マイナカード券面の生年月日情報に基づいて3割負担分を請求し、事後から調整する方針」に変更した。一方、無保険(転職などによる加入保険変更の反映遅れ、カード読み取りや通信トラブル)などで加入保険が不明のままとなるケースも想定される。この場合は通常、医療機関に診療報酬が支払われないが、特例的に健康保険組合などの各保険者間で負担を分け合い対応すると述べた。しかし保団連では、特に初診患者の場合、未収金が増加し、レセプト請求自体が出来ないなどの問題があると指摘した。
群馬県保険医協会において実施された「オンライン資格確認システムトラブル事例アンケート」では、集計の結果60.7%でトラブルが発生したと回答を得た。トラブルの内容は「保険者情報が正しく反映されていない」、「カードリーダーまたはパソコンの不具合」、「マイナ保険証の不具合(ICチップの破損)」など。トラブル時の対応は、「持ち合わせていた保険証での資格確認」、「レセコンメーカーに相談」、「前回来院時の情報をもとに対応」などが挙げられた。一時的に医療費の10割負担を請求した事例は9件(11.3%)であった。
「オンライン資格確認等システム」は、これからの日本の「医療DX」の要と言われているが、6月25日の時点で、マイナンバーカードを健康保険証として利用登録している人の割合は69.4%である。最近は国民の不信感と警戒心が反映された影響か、ひと月当たりの新規登録数は過去半年で最低となっている(デジタル庁「政策データダッシュボード」参照)。
今回のマイナ保険証にトラブルが多発した要因は、マイナポイント事業で急増したマイナンバーカードの登録作業による現場のミスが指摘されているが、マイナンバーの仕組み、保険証との紐付け、2024年秋の保険証廃止は国が決めたことである。
どのような仕組みでも、堅牢な計画やセーフティネットが無ければ、現実には口先で唱えるだけで実質のともなわないものとなり、右往左往させられるのは現場になってしまうのではないかと考える。今後の厚労省、政府の取り組みを注視していきたい。 (共済部長 太田美つ子)