医学教育の近況
群馬大学大学院医学系研究科 岸 美紀子
皆様お世話になっております。群馬大学大学院医学系研究科医学教育開発学講座の岸美紀子と申します。この度は寄稿の機会をいただき感謝申し上げます。医学教育開発学講座という名称を初めて目にする方も多いと思います。当講座は平成22年に設置された医学教育センターを前身としており、令和4年に講座化されました。医学科のカリキュラムの構築や、多職種連携教育、医療安全教育、学生支援等教育全般に関わっています。地域医療機関の皆様には、学生の臨床実習や介護老人保健施設実習等でも多大なるご協力をいただき感謝申し上げます。
さて、群馬大学医学部医学科は昭和18年の前橋医学専門学校設立から80年以上の歴史を重ねています。高等教育機関として群馬県の人材養成に貢献してきた本学の教育も時代と共に変遷してきました。私が本学で教育を受けてから30年余が過ぎたところですが、その間にも教育は大きく変わったことを実感いたします。本稿では、最近の医学教育の状況についていくつかご紹介したいと思います。
医学教育モデル・コア・カリキュラムの導入
医学医療の知見は増加の一途を辿り、学生時代に学ぶべき事項も増加しています。これらを整理し、医学の著しい進歩や医学・医療をとりまく社会的変化に対応するために医学教育モデル・コア・カリキュラムが平成13年に発表されました。全国の医学生が学ぶべき項目が列挙されており、カリキュラムの3分の2程度で扱うことが想定されています。残り3分の1は各大学の特色を活かした教育を組み込むことになっており、本学では医療安全教育や多職種連携教育、診療参加型臨床実習の充実等を図っています。
授業方法の変化
かつては、講義ではご自身の臨床経験や研究について溢れんばかりの熱意で語り、教科書の内容は自己学習(かつ全て試験範囲)とされる先生方がいらっしゃいました。今でも覚えているのはそのようなお話だったりするのですが、今は教員が説明して学生がノートを書くという講義スタイルも変わってきており、学生が症例などの課題にグループで取り組みながら学習し、相互発表や教員の説明で不足部分を補いながら学ぶようなアクティブラーニングが多く取り入れられています。教科書もデジタル化が進んでいて、授業中には教科書ではなく、パソコンやiPadを開いている学生がほとんどという光景になりました。教材にも動画やシミュレータが加わっていますし、高齢者とのコミュニケーションについて体験するVR(Virtual Reality)機器も授業に取り入れられています。授業の方法が変化するなかでも現場での実習の重要性は変わっておらず、病院での臨床実習や介護老人保健施設での実習は依然として貴重な学びの機会となっております。
診療参加型臨床実習の充実
臨床の現場で学ぶことの重要性が高まり、臨床実習の期間が長くなっています。内容も従来の見学型実習から、学生も医療チームの一員として診療に関わる診療参加型臨床実習に移行しています。本学では、4年生後期から附属病院の全診療科で実習を行った後、5年生後期から県内・近県各地域の40以上の医療機関で2週間から4週間の臨床実習を行っています。医学生を受け入れ、ご指導頂いている皆様に感謝申し上げます。令和5年度施行の医師法改正により「大学において医学を専攻する学生であって、共用試験に合格したものは、前条の規定にかかわらず、当該大学が行う臨床実習において、医師の指導監督の下に、医師として具有すべき知識及び技能の修得のために医業(政令で定めるものを除く。次条において同じ)をすることができる」とされ、医学生が法的な後ろ盾を持って医行為を行うことが可能となりました。医学生は臨床の現場で医療面接や診察手技を学ばせていただいていますが、患者の皆様の安全を守ることが最重要ですので、侵襲的な医行為についてはスキルラボセンターのシミュレータを活用して学んでいます。
医学生の質保証としての共用試験
上記のように学生が医療チームの一員として患者さんの診察に関わる以上、患者さんの安全を確保するために学生が一定の能力を持っていることを保証する必要があります。このため、学生は臨床実習に出る前に医師法に記載されている共用試験に合格する必要があります。共用試験は全国共通で行われるもので、知識を確認するCBT(Computer Based Test)と、医療面接や身体診察の実技試験であるOSCE (Objective Structured Clinical Examination)の両方に合格し、臨床実習生(医学)と認定された学生のみが臨床実習に参加できることになります。また、臨床実習を終了した6年生は臨床実習後OSCEに合格することが卒業要件となっています。全国の共用試験をとりまとめている(公社)医療系大学間共用試験実施評価機構から臨床実習前(4年生)の共用試験の紹介動画が出ていますのでこちらからご参照ください。
教育の質保証としての外部評価
前項で医学生の質を保証する制度について紹介しましたが、大学が提供する教育についても質の保証が求められています。群馬大学全体を評価する大学機関別認証評価と医学科の教育について評価する医学教育分野別評価の2種の外部評価が継続的に行われています。医学教育分野別評価は日本医学教育評価機構により7年ごとに行われており、評価は国際基準に基づいています。本学は令和6年に2巡目審査を受審し、国際基準に適合している医学教育を提供していることが認定されました。
群馬大学医学部医学科のホームページでも、本学の教育の特徴をいくつか紹介しております。学生が出演している動画もありますので、お時間ございましたらこちらから是非ご覧ください。
今後とも本学の教育にご理解とご協力をいただけますと幸いです。