マイナンバーカード普及手段としての保険証廃止
保険証廃止の発表
2022年10月に河野デジタル相は、2024年秋を目処に現行の保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体となるマイナ保険証に切り替えることを発表した。
しかし、日本では国民に対して公的医療保険への加入を義務付ける「国民皆保険制度」を採用している。現行の保険証を廃止してマイナ保険証に一本化する今回の発表は、義務を伴う保険制度と、任意取得のマイナンバーカードの紐付けであり、マイナンバーカード取得の事実上の義務化といえる。
マイナンバーとは
マイナンバーとは、行政手続における特定の個人を識別するための番号のことで、その利用に関するマイナンバー法は2013年に成立した。
その目的について、総務省のウェブサイトには「公平・公正な社会の実現」「行政の効率化」「国民の利便性の向上」という3つの意義をうたっているが、「行政の効率化」は「お上の都合」であり、国民に関係するのは3番目だけである。
マイナンバーの問題点
マイナンバーは住民票を元に付番するため、住民票のないホームレスや住民票の住所に住んでいない人には届かず、全国民への通知の徹底は不可能であり、真に手をさしのべる必要のある人に対する社会保障の充実は困難である。
また、世帯単位の収入等を把握する総合合算制度により給付を行う等の政府発表もあるが、行政機関の申請主義は変わることはなく、生活保護などでも行政からの手厚い給付は期待できない。
マイナンバーは生涯不変で、行政内だけでなく民間での利用も想定しているため、漏洩を防ぐ事は不可能である。本来、個人情報は情報漏洩を前提に分散管理を行うことが基本であるが、マイナンバーはそれとは正反対の集中管理であり、セキュリティ面でも懸念がある。
マイナンバーにより政府は国民の情報入手が容易になる。特定秘密保護法と合わせて出された法であるため、政府に都合の悪い情報は秘密にし、国民の情報は国家による一元管理が可能となる。独裁国家にとって都合の良い制度と言えるだろう。
マイナンバーカード交付率
マイナンバーカード交付は2016年から始まったが、マイナポイントなどのオマケをつけても、交付率は5割と低い。
内閣府の『2018年世論調査』での取得しない理由は「必要性が感じられない」、「身分証明書は他にもある」、「個人情報の漏えいが心配」、「紛失や盗難が心配」とあり、カード取得の魅力が乏しい上に、情報の流出に不安を感じていることが伺える。
マイナンバーカード普及を急ぐ理由
例えば、2016年から金融機関は預金口座とマイナンバーを紐付けて管理する義務が課せられ、登録が進められているが、この登録には、マイナンバー通知カードと本人確認書類のコピーを紙で提出してもらう必要があるため手続きは容易なものではなく、順調とは言えない。もし、マイナンバーカードがあれば、本人確認が容易になり、この手続きも楽になるだろう。
紙と人による作業を避けて、マイナンバーと各種情報を紐付けるには、マイナンバーカードを使うやり方が、事業者側と利用者側の双方にとって最も容易である。ただ政府がマイナンバーを国民に割り振っただけでは、実効性は薄い。
他の様々な情報を紐付けるために、マイナンバーカードを全国民が取得し、利用に慣れてもらう必要がある。これが、政府がマイナンバーカードの普及を急ぐ理由と思われる。
マイナ保険証
2021年10月からマイナンバーカードの保険証利用が可能となったが、利用可能な施設は少なく、2023年4月からのオンライン資格確認義務化はその施設を増やすことが目的であると思われる。
厚生労働省の公式サイトでは、マイナ保険証のメリットを次の様にうたっている。
(1)就職・転職・引越をしても健康保険証として継続して使える。
(2)マイナポータルで特定健診情報や診療・薬剤情報・医療費が見られる。
(3)マイナポータルで確定申告の医療費控除が簡単にできる。
保険証廃止の問題点
現行の保険証を廃止するという政府のいきなりの発表に対して問題点は多く、次の様な意見がある。
・保険証を人質にとって無理矢理マイナンバーカードを取得させるのは、何か裏の意味があるのではと勘ぐってしまう。
・本人の意識が無い時は?薬局に代理家族やケアスタッフだけが来る時は?電子的にしか確認できないのは不便以外の何物でもない。
・対応できない高齢者は多数いるはずであり、サポートをするのは行政や医療機関であることを無視した強硬策に思える。
・体制を整え十二分に周知してから行うべき。また、顔認証カードリーダーを医療機関に強制するならば導入経費と維持費は全額国が負担すべき。
・将来的に色々なものと紐付けされていくと、情報漏洩が気になるし、持ち歩くことによる盗難や紛失などのリスクがあまりにも大きいと感じる。
マイナンバーカードへの保険証強制導入による行政のメリットに対して、保険証廃止の国民のデメリットは大きい。強引な保険証廃止は問題ありだ。
(副会長 長沼誠一)