口腔機能低下症の算定
2022年4月に診療報酬が改定された。基本方針から抜粋する。
(健康寿命の延伸、人生100年時代に向けた「全世代型社会保障」の実現)
○同時に、我が国は、国民皆保険や優れた保健・医療システムの成果により、世界最高水準の平均寿命を達成し、人生100年時代を迎えようとしている。人口構成の変化を見ると、2025年にはいわゆる団塊の世代が全て後期高齢者となり、2040年頃にはいわゆる団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者となって高齢者人口がピークを迎えるとともに、既に減少に転じている現役世代(生産年齢人口)は、2025年以降、更に減少が加速していく。
○このような中、社会の活力を維持・向上していくためには、健康寿命の延伸により高齢者をはじめとする意欲のある方々が役割を持ち活躍のできる社会を実現する(後略)。
フレイル予防の打ち出しを感じる。
(具体的方向性の例)
〇かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価
・かかりつけ医機能を担う医療機関が地域の医療機関と連携して実施する在宅医療の取組を推進。
・歯科医療機関を受診する患者像が多様化する中、地域の関係者との連携体制を確保しつつ、口腔疾患の重症化予防や口腔機能の維持・向上のため、継続的な口腔管理・指導が行われるよう、かかりつけ歯科医の機能を評価。
プレフレイルとしての、オーラルフレイル予防の位置づけを感じる。
2018年に保険導入された、65歳以上の「口腔機能低下症」における「口腔機能管理料」算定は、50歳以上に拡大された。
「口腔機能管理料」は、歯の喪失や加齢、これら以外の全身的な疾患等により口腔機能の低下を認める患者に対し、口腔機能の回復又は維持・向上を目的として行う医学管理を評価したものである。口腔機能低下の7つの項目(口腔衛生状態、口腔乾燥、咬合力低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧、咀嚼機能検査、咬合圧検査又は舌圧検査)のうちいずれか3項目以上に該当すると「口腔機能低下症」と診断され、継続的な指導および管理を実地する場合に算定できる。2020年度の厚労省『第7回NDBオープンデータ』より、病名「口腔機能低下症」として算定される「口腔機能管理料(100点)」は、全国統計で42万3455点、群馬県では1893点と算定率の低さが読み取れる。
算定においては、7項目全ての検査を実施する事が義務付けられている。この検査に必要な機器の価格は、「口腔乾燥測定器」7万5千円、「咀嚼機能検査機器」2万4800円、「咬合調整圧測定器」42万5千円、「舌圧測定器」16万円と、多額の設備投資が必要である。
機器のランニングコストは、口腔乾燥測定74円/回。咀嚼機能検査553円/回/6か月。咬合圧測定743円/回/6か月。舌圧測定2千円/回/3か月。さらに舌圧測定は、1500円の舌圧チューブを1ヶ月毎に交換する必要がある。機器を使わずに評価できる方法も提示されているが、舌圧測定に関しては舌圧計の使用が求められるため、最低でも舌圧測定器は必須となる。
診療報酬として算定できる点数は、咀嚼機能検査140点。咬合圧測定130点。舌圧測定140点。
あまりにもコストが掛かるように感じる。口腔機能低下症の診断における問題点は、7項目すべての測定が口腔機能低下症と診断し算定をするための条件になっていることである。すべての検査を行わずとも、舌圧を測定して残存歯数が20本未満、舌苔の付着度が50%以上あれば、すでに3項目をクリアするため、口腔機能低下症の診断ができると考えられる。
例えば、2週間前から義歯の具合が悪いので新しく義歯を作りたい、と来院された患者がいたとする。口腔乾燥があり、舌苔を認める。舌圧を測定すると23kPaと基準値の30kPaに満たない。食前の口腔体操を指導すると、2週間後には義歯の違和感は消え使用可能になった、などという例は多々ある。
7項目すべてを検査せずとも、3項目以上が当てはまれば口腔機能低下症と診断できるが、この場合口腔機能低下症の診断名は使用できない。7項目すべてを検査するという義務付けは、医療費抑制の縛りを感じる。
口腔機能低下症と診断することがゴールではない。それを患者に説明し、口腔機能リハビリを継続させるために動機付けて納得させることが重要であり、その指導には、多くの時間を費やす事になる。
7項目すべてを検査し口腔機能低下症としても、口腔機能管理料は100点。診療報酬として適正な対価であるかは疑問である。
超高齢社会において、健康寿命延伸を掲げ、フレイル予防の入り口であるオーラルフレイル予防に歯科が重要な役割をもつことは周知の事実であるが、一般の歯科診療体系にはまだまだ浸透しておらず、地域におけるかかりつけ歯科医としての在り方が問われる時代になっていくと推測される。
(副会長 小山敦)