そのゴミは本当に感染性廃棄物なのか
我が国における医療廃棄物は概括にいえば
(1)特別管理廃棄物(感染性)
(2)産業廃棄物(非感染性)
(3)一般廃棄物(非感染性)
の3つに分類される。(1)はさらに特別管理産業廃棄物および特別管理一般廃棄物に分けられる。特別管理廃棄物とは産業廃棄物および一般廃棄物をさらに厳格に処理をするものであり、その分コスト高となる廃棄物である。
現在、感染性産業廃棄物以外の特別管理産業廃棄物については、その定義が具体的に定められている。一方、感染性産業廃棄物の定義は「感染性廃棄物とは、医療関係機関等から生じ、人が感染し、若しくは感染するおそれのある病原体が含まれ、若しくは付着している廃棄物又はこれらのおそれのある廃棄物を言う」と具体的とは言い難く、これでは判断に迷ってしまう。
平成12年12月に環境省は、行政改革推進本部規制改革委員会から「『廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル』(環境省等)(以下マニュアルという)は、感染性廃棄物の判断の多くを医師等に委ねていて判断基準が客観性を欠いている」等の指摘を受け、平成16年3月に感染性廃棄物の判断基準の客観性の向上等を加味した改訂を行った。(大阪府の医療廃棄物Q&Aより)
以降は最新版のマニュアル(令和4年6月)の内容に沿って話を進める。感染性か否かを分別するための評価項目は、3段階からなっている。ステップ1は「形状」の観点で、①血液等の体液そのもの、②病理廃棄物、③病原微生物に関連した試験、検査等に使用されたもの、④血液等が付着している鋭利なもの、の以上である。なお、鋭利なものは血液付着の有無に関わらず感染性廃棄物とするよう注釈がついている。ステップ2「排出場所」の観点は、①感染症病床等、手術室、緊急外来室、集中治療室、検査室において治療、検査等に使用され、排出されたもの、②実験室・研究室で微生物実験に使用され、排出されたもの、の以上である。ステップ3「感染症の種類」の観点は、①感染症法の一~三類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症の治療、検査等に使用され、排出されたもの、②感染症法の四、五類感染症の治療、検査などに使用され、排出された医療器材、ディスポーザブル製品、衛生材料等(ただし、紙おむつについては、特定の感染症に係るもの等に限る。)、の以上である。「これらステップのいずれの観点からも判断ができない場合、血液等その他の付着の程度やこれらが付着した廃棄物の形状、性状の違いにより、専門知識を有する者(医師、歯科医師、獣医師)によって感染の恐れがあると判断される場合は感染性廃棄物とする」となっている。
感染性廃棄物が増える大きな要因の一つに、客観的な評価が困難な物品(代表としてグローブやガーゼなど)の存在がある。これらが感染性廃棄物となるケースについて考えてみたい。例えば、これらが手術室から排出されれば、血液付着の有無に関わらずステップ2に該当し、感染性廃棄物となる。また、HBV感染症患者の治療にこれらが使用されたならば血液付着の有無に関わらずステップ3に該当し、感染性廃棄物となる。悩ましいのはステップ2または3に該当しないケースである。基本的に専門知識を有する者により感染の恐れを判断するのだが、その判断の目安が大阪府の医療廃棄物Q&Aに示されている。「多量の血液が付着していることにより血液がこぼれ落ちて周囲を汚染するおそれがあるものを感染性廃棄物とし、血液の付着の程度が少量であるものや乾燥しているものは、非感染性廃棄物とする」とし、「唾液、排泄物、嘔吐物等は、血液と比較して感染性は低いが、それらが多量に混入していれば感染性廃棄物とする」としている。なお、グローブは感染性がないと判断されればあくまでも産業廃棄物である。
もう一つの要因は、運搬業者側にある。一般的に感染性廃棄物に比べ非感染性廃棄物の運搬費は当然安価となるが、特別管理産業廃棄物の運搬業者によっては非感染性のグローブ等の産業廃棄物を感染性廃棄物と区別せず、同価格で運搬を行っているケースがあると聞く。これではグローブ=感染性廃棄物と思い込んでしまうのも無理はない。コストを考えても別の産業廃棄物(非感染性)運搬業者に委託するしかないだろう。
感染性廃棄物はいつ、どこで、誰に、どのようにして感染の脅威を与えるかを考えれば、患者や医療従事者に対して講じる交差感染の防止を主眼とした感染対策と同列ではなく、適切な梱包と厳重な保管が重要となってくる。しかしながら、50リットルまたは80リットルダンボールに15キログラムを上限とする固定価格制をとっている特別管理廃棄物運搬業者が多いと聞く。処分場の取り決め事なのだから致し方ないだろうが、これでは「食品の詰め放題」と同様の心理が働き、感染性廃棄物を上限の15キログラムまで潰すだけ潰して詰め込むことに繋がる非常に危険なシステムではなかろうか。マニュアルにも、「内容物の詰めすぎにより、容器の蓋の脱落、注射針の容器外側への突き抜け、内容物の容器外部への飛散・流出等が生じるおそれがあるため、容器に感染性廃棄物を詰め過ぎない(容器容量の8割程度)ように注意する」とある。
コロナ禍の現在、急激な勢いで感染性廃棄物は増え続けている。運搬業者の中には感染性廃棄物の量が多すぎて、新規の取引は受け付けないところもあると聞く。このままでは運搬・処理価格の高騰や廃棄物運搬の引受拒否のような事態を招く恐れがある。廃棄物を減らすための取り組みの一つに「3R(Reduce・Reuse・Recycle)」があるが、我々が今すぐにできることは、院内より排出された廃棄物をマニュアルに則って分別し、感染性廃棄物をできるかぎり減らすことだろう。ゴミは機械的に「ゴミ箱」に廃棄するのではなく、感染性廃棄物か否か、産業廃棄物か否かを常に意識し、ゴミ箱のみならず運搬業者も適宜仕分けて排出することこそが、感染性廃棄物を減らすためには大変重要なことなのだろう。
(研究部・歯科部長 狩野証夫)