いま、改めてマイナカードの再考を

 今年4月から、医療機関に対しマイナンバーカード(以降、マイナカード)を保険証として利用できるシステムの導入が義務化された。システムを導入しない場合、保険医療機関の指定が取り消される可能性がある。これは、自動車免許でいえば「免許取り消し」であり、かなり重い罰則といえよう。国は、保険医の了承を得ず説明不十分のままシステムの導入を義務化し、それに従えないなら保険医療機関の指定取り消しとの処分は、民主主義社会においてはかなり横暴なやり方である。

 この間読み取りエラー等、多くのトラブルが報告された結果か、厚労省は11月13日に10月時点の利用率が4.49%だったと明らかにした。 ピークだった4月の6.3%から6カ月連続の低下である。当院においても導入当時より現在のほうがマイナカードの使用率は低下傾向にあり、導入当初マイナカードを持参した患者の中にも、その後の来院時にはカードを使用しなかったケースが少なからずある。

 医療機関に対しては問題のあるマイナカードシステムの導入を義務化し、国民にはカードの申請と利用を勧める、そして利用においてトラブルがあれば医療機関の責任という、いわば国による免責付きの押し売り商法である。そもそも、普及促進のためにかなりの予算を使ってポイントまでつけるというのは、国民の取得行動へのインセンティヴであり、行政はそれ自体がシステムとして浸透しにくいと理解した上で、それでも普及を推進したい事情があるということの表れではないだろうか。

 真に国民のためのシステムであるなら、導入に際しどんなに反対されようと、政府は国民に対して粘り強く丁寧に説明(政府がここのところ常用する言葉で、額面通りの意味から乖離しているが)すべきではないだろうか。そして説得できないなら、根本的に問題点を洗い出し、潔く国民が納得するようなシステムにして出直すべきであろう。首相は、就任当初の所信表明で「国民の声を聞く」と言いながら、本システムの強引な導入といい、国民が生活に喘いでいるのに頑なに消費税減税を拒む姿勢といい、国民の声を聞くどころか、国民からの信頼を得る体をなしていない。

 さらに昨年10月、デジタル相はトラブルが多いにも関わらず、マイナカードと保険証を一本化し、2024年秋には現行の保険証を廃止することを発表している。これには医療現場のみならず、国民が不安になるのも至極当然である。

 例えるなら、「安全性は不確実であるものの、今後は○○社のカードの使用を義務付ける」という指示を出すようなものである。20年前の住民基本台帳ネットワークシステムの失敗が教訓として全く生かされていない。

 当院の窓口で行った「現行の保険証廃止反対」の署名は、これまでと違いこちらが声をかけなくても自ら署名してくれる患者がとても多い。

 個人的には、エコの立場からも紙媒体を可及的に減らすこと自体には賛成である。

 ただし、まずは当事者である国民の利益が最優先されるべきで、当然ながら万一の際の対応にも万全を期すことが前提であるが、この前提が根底から確保されていない。

 「現行の保険証廃止」の目的が管理の「効率化」であるなら、それは最優先される理由ではないはずである。そもそも、導入時においてシステムの不具合や登録ミス等を関係者が人海戦術で対応している時点で、すでに「効率化」とは程遠く、政府の進める「働き方改革」とも乖離している。

 東京保険医協会は、東京地裁に対し、「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」を起こし、私も原告団に加えさせていただいた。「受給資格の確認等療養の給付に係る一連の事項についても健康保険法70条1項が包括的に委任している」との国の主張に対し、原告側は国が証拠として提出した『健康保険法の解釈と運用』を根拠に、準備書面で反論した。ちなみに同法には、資格確認を保険医療機関に義務付ける規定は存在しない。

 周知徹底してから、新規のシステムへ切り替えをする、これが社会一般のシステム変換の際のあるべきプロセスである。マイナカード導入の目的、それによる国民、医療機関、医療体制にどんな利益がもたらされるのか、国はそれを当事者が理解できるよう説明に尽力すべきである。

 いまだに解せないのは、なぜ廃止の期日があらかじめ決められているのか、である。少なくとも国民にシステムが受け入れられてから、保険証の廃止を検討すべきであろう。

 利用者の意見を聞かず各駅停車の運行をやめ、急行列車の運用を強引に進めるようなものではないだろうか。

 システム導入において、改めて利用者である国民の利益を最優先してほしい。

(広報部 清水 信雄)