今回の診療報酬改定は、これまでと異なり、6月1日に施行となりました。従来は2月中旬に中央社会保険医療協議会(中医協)の答申が出て、4月1日に改定が行われてきました。しかし、今回は「ベンダーの負担軽減」を理由に、2か月遅れとなりました。

 診療報酬改定で収入がアップするならば、2か月の遅れは黙っていられないところかもしれません。しかし、「プラス改定」とは言うものの、そんなはずはないと思っていたので、さほど気にもなりませんでした。

 厚労省によれば、歯科は0.57%のプラス改定です。これには40歳未満の勤務歯科医師、事務職員、技工所等で従事する者の賃上げ対応分の0.28%が含まれます。ベースアップ評価料は別枠です。いわゆる医療DXにどのくらい割り当てられているのか、わかりませんが、技術料などのアップに振り分けられたのは微々たるものだろうと想像できます。

 診療報酬改定の意義・役割は、医療技術を評価して、新技術を導入し、古くなった技術を廃止すること、物価動向に合わせて、評価を見直すこと、政府の政策を実現するための誘導策を盛り込むことなど、多々あると思います。

 昨年などは、額としては十分とは言えませんが、物価・エネルギーの高騰対策のため、医療機関への補助金がありました。今期の改定では、物価高騰、人件費高騰への十分な対応が望まれるところです。その意味でベースアップ評価料は時宜にかなったものかもしれません。

 しかし、ベースアップ評価料Ⅰは歯科の場合、対象となるのは歯科衛生士、歯科技工士、歯科診療補助者で、勤務歯科医師と事務職員は対象外です。しかも、この評価料は対象者の賃上げの1.2%を賄うものでしかありません。定期昇給分を含めても、歯科医療従事者の賃上げは3%に届くかどうかというところだと思います。

 日本労働組合総連合会(連合)の発表では今年の春闘では定期昇給分を含めて5.2%の賃上げを勝ち取ったとしています。経団連は大手企業の定期昇給を含む月例賃金の引き上げは、平均5.58%になったと発表しています。これらと比べると、医療従事者の賃上げは明らかに見劣りします。

 2022年度は全国で医療福祉分野の新入職員は約114万人、離職者は約121万人で、離職者の方が約7万人上回りました。2040年には全国で、医療福祉分野の担い手が100万人不足すると政府自身が予測しています。医療福祉分野の賃上げを中心とする処遇の改善は急務だと思います。

 改定のたびに診療実績に新点数を当てはめて、自院にとっての改定率を調べています。どのような人員配置で、どのような診療をしているか、どの施設基準をとっているかで、診療報酬改定の影響の大きさは変わります。自院の特徴は65歳以上の高齢患者が7割以上を占め、外来収入と訪問診療収入の比が8対2です。施設基準はクラウン・ブリッジ維持管理料、初診料の注1、外来環1(改定後は外安全1と外感染1)、か強診(改定後は口管強)、歯援診1などをとっています。こんな歯科診療所の2024年6月改定の結果は0.33%のアップでした。賃上げ相当分の0.28%を含んで、こんな状態です。

 ちなみに今回の改定で賃上げの対応分とされた初再診料の引き上げ、支台築造、金属歯冠修復、有床義歯等の引き上げだけの当てはめでは、0.34%のアップになりました。

 また、主な施設基準による収入が占める割合は、あくまでも自院での試算結果ですが、初診料注1が1.7%、外感染1と外安全1で0.6%、口管強が4.5%、歯援診1が1.3%などで、全体で8.1%にもなります。政策誘導に乗せられているのでしょうが、診療報酬のアップが期待できない中、施設基準の取得・維持は経営改善の有力な手段の一つと考えます。

(審査指導対策部長・歯科 半澤正)