2026年度をめどに、標準的な出産費用の自己負担を無償化するという計画があります。現在、出産育児一時金給付という形で出産費用の補助が出されていますが、今回の保険による無償化は、それに代わる制度とされています。
出産費用の無償化は、菅元総理、岸田元総理らが明言したことで、2023年12月22日に岸田内閣で閣議決定されました。現金給付を止めて保険適用とする方針が「子ども未来戦略」に盛り込まれ、制度化に向けて検討が進められています。
しかし、厚生労働省の「出産費用の状況等について」によれば、最も平均出産費用が高いのは東京都で62万5372円、最も低いのは熊本県で38万8796円であると示されており、地域格差が存在します。それぞれの地域における賃金格差等に比例し大都市圏では出産費用が高くなる傾向があります。これを一律化し、保険適用による無償化を行うことは少子化対策としては効果的な施策ですが、産科医療機関の経営や地域医療提供体制に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
まだ金額は提示されていませんが、東京都における平均出産費用よりは少なくなる見通しです。出産費用が現行より大幅に減額された場合、産科施設の閉鎖が進む懸念があります。日本産婦人科医会の「地域における産科診療施設の事業継続見込みに関する調査」によれば、正常分娩の費用が保険適用となった場合、「分娩取り扱いを止める」または「制度内容により中止を考える」と回答した産科診療所は590施設中401施設にのぼっています。
出産費用が減額された場合、産院独自のサービスである食事や出産前後のケアなどに影響が出ると考えられます。自費だからこそ十分な医療が提供できていた産科医療の現場が、保険化された金額によっては十分な医療が提供できなくなってしまうのです。
また、経営面での影響も大きな課題です。人件費の増加、医療機器価格の高騰、光熱費や施設の維持管理費の上昇などにより経費は年々膨らむ傾向にあります。これらの要因が重なり産科施設自体の継続が困難になる恐れがあります。
群馬県では近年、分娩取り扱い医療施設が減少しています。2003年には57施設ありましたが、2024年には29施設と21年間で約半減しています。この中には一般の開業医の分娩施設だけでなく、病院群の分娩停止も7件含まれています。
分娩費用の無償化によって出産を希望する人が増えたとしても、安全に分娩できる施設がなくなってしまえば本末転倒です。これまで病気ではないといって自費であった出産に対して、保険適用をすることに無理があるように思えます。
(会長 小澤聖史)