善き友
徒然草第117段は推奨する友だちとして、「一にはものくるゝ友」を挙げている。互いの交流を促進し、円滑に進めるためにプレゼントは有意義である。根源的な経済活動である物々交換の発展形と言えるかもしれない。
物品のやり取りが1対1の関係であれば簡単だが、そこに第三者が存在すると複雑である。医師歯科医師と医療業者との関係は第三者である患者に影響を及ぼす。医療行為の目的は患者の健康増進であり、治療法の選択は当然患者の利益が最優先される。
薬剤の受け渡しについて考えてみると、薬を出す、あるいはもらうという表現があるように、薬剤を購入しているのは医療機関で、患者には買ったという意識が希薄である。持ち帰らない注射剤であればなおさらである。
営利企業である製薬会社が医師歯科医師に物品を渡すのは、それが企業の利益につながると判断するからである。関係を構築した医師歯科医師が会社の利益になる行動をとるとの目論見がある。さらには執筆や講演などの対価として金銭の授受が生じれば、企業の成績向上は医師歯科医師自身の利益に直結する。そこには患者の利益にならない薬剤が選択される余地があり、企業及び医師歯科医師と患者の間には利益相反が存在する。放送局はスポンサーの不利益を避けるが、そのために視聴者は正確な情報を得難くなり損失を被る可能性があるのと同じ原理である。
処方は医師歯科医師の役割であり、患者の薬剤選択の幅は狭い。そして日用品と違い患者にとって薬剤の優劣は判断しがたいので利益相反の影響を解消する仕組みが必要である。患者の本来の利益が保証される方策を考えてみる。
一般的な取引ならば事前に利益相反する関係者の了承を得てから行うのがルールであるが、誰が患者となって来院するかわからないのであるから、医師歯科医師が将来の患者から了解を得ておくのは不可能である。しかしあらかじめ企業との関係が公表してあれば患者は受診前に閲覧できる。
現在企業から医師への資金提供は各企業のインターネットサイトで公表されているが、ひとりの医師が複数の企業から受け取っているすべての資金を調べるのは容易でない。特定非営利活動法人Tansaと医療ガバナンス研究所による「マネーデータベース製薬会社と医師」のサイト(https://db.tansajp.org/)では2016年から2018年までの資金提供が検索でき、貴重な情報源である。しかしデータベースの構築には多大な労力が必要で、本来は国の制度として一元的な管理が望ましい。
利益相反が避けられない医師歯科医師の診療を受けるのであれば、患者は利益相反のない他の医師歯科医師によるセカンドオピニオンを得てから治療を選択することも可能である。医師歯科医師に診療情報として企業からの資金提供を公表する義務はないが、患者にとって有意義であることが理解されれば自発的な公表が普及する可能性はある。
医師会生涯教育制度の学習内容として講演会への出席が実績として評価される。多数の講演会が企業の資金提供により行われており、その内容は薬剤のプロモーションに近い場合がある。講演での情報提供に偏りがないか懸念を抱かざるを得ない。講演料や交通の便を供されているにも関わらず利益相反がないと申告する講師もあいかわらず存在し、企業を「よき友」としている意識が垣間見える。製薬企業がなければ医療は成り立たない。しかし患者あっての医療である。企業との必要な協力は惜しむべきでないが、内容を伴わず宣伝に利用されているような関係は医療不信の元になるであろう。疑問を抱かれるような資金は1円たりとも受け取らないようにしていきたい。
(経営対策部 本澤 龍生)