歯科の施設基準 質の担保と政策誘導活用で患者サービス向上を!
歯科における施設基準は、補綴物維持管理料の導入から始まりました。
補綴物維持管理料とは、その施設基準を届け出た医療機関において、歯に冠を被せた場合などに、実質的にその後2年分の成功報酬を前払いする仕組みです。1本の歯に冠を被せた場合(単冠)は、100点(導入当初は150点)が補綴物維持管理料となります。但し、冠を被せた日(装着日)から2年間は、保険診療の対象となる場合は理由の如何にかかわらず、冠を入れた医療機関で再製作する場合の費用は医療機関の負担となります。
この管理料の導入当初、点数の根拠は冠が口腔内に維持される平均的な期間をもとに単冠の場合は150点と説明されていましたが、後に補綴物維持管理料が普及したとの理由で100点に減額されました。これは、政策誘導として当初高めに設定したが、普及したので減額したという訳です。
また、補綴物維持管理料の施設基準を届け出ない医療機関は2年以内の再製作の費用を請求できますが、その請求額は7割と低く抑えられ、しかも、この導入の際に補綴物の維持管理とは無関係な点数格差も導入されました。補綴物維持管理料の施設基準を届けていない歯科医療機関は歯の根の治療の際の加圧根充処置(現在の点数では大臼歯の場合210点など)は算定できないこととされました。
この補綴物維持管理料は、質を担保するためという側面もありますが、「状態の悪い歯に保険の費用を使用するな!」という医療費抑制の意味合いもありそうです。
その後、歯科の施設基準は次々と導入され、今では50以上になります。
施設基準は明らかな政策誘導です。確かに医療の質を担保するという側面、必要な医療機器の普及を図るという側面等があります。
例えば、手術用顕微鏡加算の施設基準を届け出ている医療機関で、歯科用CTで得られた診断結果を踏まえて手術用顕微鏡を用いて、特に複雑な歯の根の治療を行った場合は400点の加算が算定できるという仕組みは、治療の質の向上につながるかもしれませんし、必要な機器購入の費用確保につながるかもしれません。
しかし、施設基準を届けている、いないに関わらず、同じように提供できる医療内容に明らかな点数格差を設けられています。その最たるものが今春の改定で廃止されたSPTⅡ(歯周病安定期治療Ⅱ)かもしれません。このSPTⅡはかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)のみが算定できることになっていました。20本以上の歯がある場合、か強診が算定できるSPTⅡは830点(毎月算定可能)、か強診以外が算定するSPTⅠは350点(原則3ヶ月に1回算定)でした。
歯周病安定期治療(SPT)とは中等度以上などの歯周病に対して治療を行い、概ねコントロールできているが、炎症が一部残っている場合に継続的に管理していくことを指します。この治療に関しては、か強診でなければ提供できないような中身はありません。
保団連の2022年診療報酬改定への要求の中では、「同じ医療行為を行っても、1物2価とした問題点が残ったままになっている。歯科医療担当者にとっても、患者・国民にとっても不幸な矛盾であり、解消すべき問題点である。」とされています。
2022年診療報酬改定に対する宇佐美保団連歯科代表の談話では「歯周病安定期治療では、か強診が算定できるSPTⅡがSPTⅠの算定要件に揃えるかたちで一本化された。」SPTの一本化については、算定要件の整理を求めた保団連要求が実現した。しかし、SPTⅡにあった「算定期間の短縮」や「Ⅰに比べて高い点数」といった特徴は、例外規定やか強診加算などに形を変えた。改定前と変わらず、機能評価のあり方に不明瞭な点が問題として残存しており、引き続き、検討・改善が必要である。」とされています。
1物2価の解消は望ましいのですが、高い点数を低い点数に統合したことを「成果」と誇るのは受け入れがたいと感じる会員は少なくないと思います。中医協の中では、か強診に『プレミア価格』を設定することに支払い側が反対しているので、今後も『改善』が続くものと思われます。
施設基準は今後も政策誘導の手段として活用されていくものと思われますが、安易な拡大については反対しつつ、手続きの簡素化、役割の終わったものの廃止など、医療機関の負担軽減を図ってもらいたいと思います。また、施設基準を活用して、医院経営の改善と患者サービス向上につなげることも必要な対応と思います。
(審査指導対策部歯科 半澤 正)