乳がんの現状
1980年代以降、我が国において乳がんの罹患数は増加傾向にあり、近年でも女性の部位別悪性新生物罹患率において1位を維持している。国立がんセンターの統計によると、2019年の乳がん罹患数は97,142人で、部位別で1位であった。年齢別では40歳代後半と60歳代後半にピークがある。また、2020年の乳がんによる死亡数は14,650人で、部位別では大腸、肺、膵臓に次いで4位であった。生存率を見ると、「地域がん登録」に基づく乳がん全症例の5年相対生存率は92.3%(2009~2011年診断例)であった。病期別の5年相対生存率は、全国がんセンター協議会や癌診療連携拠点病院などの統計があるが、いずれもⅠ期でほぼ100%、Ⅱ期で約95%であるのに対してⅢ期では約80%、Ⅳ期で40%以下と病期が進むにつれて急激に悪化する。このため検診で早期に発見することが、乳がん治療には重要である。
乳がん検診の現状と課題
厚生労働省は現在40歳以上の女性に対して、マンモグラフィによる乳がん検診を2年に1回受診することを推奨している。しかし2019年の受診率は、全国平均で47.4%、群馬県では48.3%と検診対象人口の半数にも満たない。乳がん検診の受診率を上げるためには、一般市民に対して検診の重要性を周知するための啓蒙活動を続けることと、検診を受けやすい環境を提供することが必要だと思われる。
乳がん検診のメリットは、言うまでも無く乳がんの早期発見と死亡率の減少である。これに対してデメリットは、マンモグラフィによる放射線被曝と偽陽性による不必要な精査(これに伴う受診者の身体的・精神的・経済的負担および医療費の増加)、偽陰性による乳がんの進行などである。
マンモグラフィによる検診では検出が困難な乳がんもあり、特に高濃度乳房(乳腺に脂肪がほとんど混在せず、病変と正常乳腺との判別が困難)では偽陰性の可能性が高くなる。このような偽陰性を減らすために、超音波検診の導入が進められている。超音波検診はマンモグラフィ検診より、がんの発見率や感度が向上し早期乳がんの割合が増加したが、一方で特異度は低下していた。今後の課題として、感度と特異度を両立するために超音波検診とマンモグラフィ検診の総合判定の必要性が指摘されている。
また過去のマンモグラフィ画像との比較読影はマンモグラフィ判定の精度を向上させるのに有用で、特に偽陽性率を下げる効果が期待されている。しかし異なる施設で検診を受けると、比較読影が出来ず偽陽性となることがある。将来的には検診画像を各検診施設で共有するか、検診受診者自身が画像データを保持出来るようになれば、マンモグラフィの偽陽性率を下げられるだろう。
ブレスト・アウェアネス
厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(2021年10月1日改正)では、従来の「乳がんに関する正しい知識及び乳がんの自己触診の方法等について」が「乳がんに関する正しい知識及び乳房を意識する生活習慣(以下「ブレスト・アウェアネス」という。)」に変更された。ブレスト・アウェアネスは、常日頃から自身の乳房の状態を意識し、いつもと異なる状態に早く気付く様にする生活習慣で、具体的な方法として以下の項目を挙げている。
①自分の乳房の状態を知る
②乳房の変化に気をつける
③変化にきづいたらすぐ医師に相談する
④40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける
各個人が日常的に自身の乳房を意識することにより、乳がんの早期発見につなげていく生活習慣で、ブレスト・アウェアネスの普及により検診対象年齢以下の若年性乳がんの早期発見や、マンモグラフィ検診で偽陰性となった乳がんを出来るだけ早く発見する効果が期待されている。
おわりに
乳がん検診を提供する側は、機器の改良や新たな検査の導入、検査技術の研鑽、知見の集積などにより精度の高い検診を提供することが必要とされている。また市民に対する啓蒙活動として、乳がん検診を受ける、ブレスト・アウェアネスを実践するなど、一人一人が自分自身で乳がんから命を守る意識を浸透させていくことが大切と思われる。
(研究部・医科部長 竹尾健)