診療報酬について
先月、アメリカから帰国したばかりの子どもを診察し、現地で出された治療費の見積もりを見て愕然とした。日本では初診料を含め5千円程度で済む簡単な治療であるにも関わらず、4万円近い金額が出されていた。いくら円安で海外の物価が高くなっているとはいえ、8倍もの値段には驚かされた。アメリカのこの処置はもちろん自由診療のため、医療機関が独自に価格を設定できる。とはいえ相場というものもあるだろうから、この4万円という金額は特別高い部類ではないはずだ。それと比較すると、日本の治療費がいかに安く設定されているかは言わずとも皆さんが感じていることだろう。
安い治療費は医療従事者の献身の上に成り立っていると個人的には思う。「医は仁術なり」、これに異論はないが、武士は食わねど高楊枝とはいかず、貧すれば鈍すると言うように、ある程度の実入りがなければ満足な設備投資も良い人材の雇用もできない。これを個人個人の献身の上に低価格で成り立たせるのはどうかと思う。
前回の診療報酬保険点数の改定は2022年だったが、ちょうどその年の2月にロシアのウクライナ侵攻が始まった。改定は4月であるものの、保険点数はそれ以前に決定しているため、ウクライナ情勢は加味されていない。では2022年4月以降にどうなったか。電気代、ガソリン代、日常品その他の値上げが何度も行われ、中には2倍近くに価格が上昇したものもある。
以前から、保険医療機関の待遇は乾いた雑巾を絞るようなものと揶揄され、採算が取れるか取れないかギリギリの状況であった。そこに今回の物価上昇である。光熱費や材料費、人件費等経費は大幅に増加するも保険点数に変更はない(一部金属材料費の改定はあるがかなり限局的である)。
テレビでは数々の品物の値上げを報道し、同一商品でさえ何度も価格を改定する事態である。少し前に、現在も値上がりしていない商品がテレビで特集されていた。残念ながら紹介された商品は忘れてしまったが、その時に私の頭に真っ先に浮かんだのが医療費であった。医療費が少しでも上昇すると、医師の人件費等で患者負担が数十円増えたなどと報道するマスコミなので(診療報酬は材料費や医師以外の人件費などにあてられるにも関わらず、医師の報酬がいかにも増えるようなミスリードを促している)当然とは思うが、医療費はその特集には含まれていなかった。材料費は少なくても十数%、多いものでは約2倍に価格上昇したものもある。改めて言うが、1年半前から診療報酬は1円も上がっていない。まして次回改定は2024年4月に予定されており、まだ半年以上残っている。さらに薬価以外の改定実施時期を、医療機関やベンダーの負担を減らすとの名目で2か月遅らせると発表があった。この状況からみて、まさかマイナスに改定されることはないとはいえ、医療機関は実質26か月もの間、お値段据え置きの大バーゲンセールを余儀なくされるわけである。
乾いた雑巾を絞る以上の言葉が見つからないため今の状況を的確に説明しようがないが、全国の保険医療機関が瀕死の状態であえいでいることは、医療従事者ならば誰でも感じていることではないか。細かい点数調整ではなく、現在の1点10円を11円とするような早急な診療報酬改定を望みたい。これなら大きな議論なく改定が可能である。(地域対策部部長 亀山 正)