生まれたばかりの赤ちゃんは自分で移動することができません。やがて這い這い、つたい歩きをして1歳の誕生日のころには歩けるようになり、成長するにしたがって遊んだりスポーツを楽しんだりします。人生100年時代といわれるようになり、超高齢化社会を迎えました。健康寿命を延ばすために運動が有意義であることは誰も異論のないことです。

 WHOは全世界における死亡に対する危険因子として高血圧、喫煙、高血糖に次いで、身体活動・運動不足を第4位に位置付けています。またWHOが公表した『身体活動、座位行動に関するガイドライン』 では、身体活動を行うことで疾患の予防だけでなく、うつや不安の軽減、思考力、学習力、幸福感を高められるとされています。

 運動とは何か。スポーツとは何か。運動と健康に関する日本の施策はどのようになっているのか見直してみました。

運動とは

 厚生労働省の『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』 によれば、「『身体活動』とは、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する骨格筋の収縮を伴う全ての活動を指し、『運動』とは、身体活動のうち、スポーツやフィットネスなどの健康・体力の維持・増進を目的として計画的・定期的に実施されるものを指す」とされています。

スポーツとは

 国語辞典によれば「スポーツは遊戯・競争・肉体的鍛練の要素を含む身体運動の総称」です。余暇を利用した身体を使った活動であり、そこに「競う」、「遊ぶ」という要素があります。

 スポーツの語源は「あるところから別の場所に運ぶ・移す・転換する・追放する」という意味を持つラテン語「deportare」とされています。やがて「気分を転じさせる」、「気を晴らす」といった精神的な移動や転換に変化しました。

 諸説ありますが、「deportare」が時を経て中世フランス語の「desporter」に転じ、16世紀になると「desporter」が、「ゲーム・ショー・見世物」といった意味を持つ英語「disport」や「sporte」、「sport」となっていきます。19世紀後半まで、スポーツは貴族階級の遊びであった狩猟を指す言葉でした。19世紀後半以降は、パブリックスクールにおいて、陸上や水泳、ラグビー、ヨット、ボクシング、テニス、バドミントンにフェンシングなど、あらゆるスポーツのルールが確立されていきます。日本にスポーツという言葉が伝来したのは、明治時代の開国時です。 明治時代には三育「知育・徳育・体育」の考え方も伝わり、身体鍛錬に主眼が置かれていました。スポーツという言葉が一般に広まったのは大正時代です。大正時代になると、野球部やテニス部など、さまざまな運動部が高等学校や大学で発足されました。野球を始めとする、さまざまな学校対抗の大会が誕生したのも大正時代のことです。各スポーツに取り組んで楽しむ人、その大会を見て楽しむ人が増えたことで、スポーツという言葉が広く浸透したと考えられます。

 スポーツ、運動に関する政策は文部科学省と厚生労働省から出ています。

文部科学省によるスポーツ基本法とスポーツ基本計画

 日本国憲法では「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とされています。これを受け、1947年に制定された教育基本法の1条で「心身ともに健康な国民の育成」を教育の目的として掲げました。また、1949年に制定された社会教育法では「体育およびレクリエーションの活動が社会教育に含まれる」ことが規定されました。その後スポーツ振興のための立法化が要望され1961年に「スポーツ振興法」が制定されました。スポーツ振興を目指す法律ですが、施設整備に重点が置かれました。

 2011年、50年ぶりに改正されたのが「スポーツ基本法」です。スポーツに関する基本理念や施策を明確にし、国民の健全な発達と豊かな生活に寄与することを目的としています。「スポーツ基本法」の規定に基づき2012年に「スポーツ基本計画」が策定されました。これは、スポーツ基本法の理念を具体化し、日本のスポーツ施策の具体的な方向性を示すものとし、国、地方公共団体およびスポーツ団体等の関係者が施策を推進するための重要な指針として位置付けられています。国は、さまざまな形ですべての人々がスポーツに関わっていくことを推奨しています。

厚生労働省による『健康日本21』と『健康づくりのための身体活動・運動ガイド』とは

 1978年に開始された国民健康づくり対策においては、健診や保健指導が実施され市町村に保健センターが整備され保健師などの人材が配置されました。1988年から始まった第2次国民健康づくり対策では、運動習慣の普及に重点を置きました。

 日本で、身体活動・運動分野のガイドラインは、平成元年、1989年に『健康づくりのための運動所要量』が発表されたのが始まりでした。そして、2000年からの第3次国民健康づくり対策時に『健康日本21(第一次)』と名づけられた運動が始まり、 次に 『健康づくりのための運動基準2006』、続いて 『健康づくりのための身体活動基準2013』が策定されました。

 さらに昨年には 最新の科学的知見に基づき『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』が策定されました。今回は、個人差を踏まえ、強度や量を調節し、可能なものから取り組むことで、今より少しでも多く体を動かすことが推奨されています。また「基準」という画一的なものと誤解しないよう名称を「ガイド」に変更されました。

まとめ

 新型コロナウイルス感染症の影響で、運動不足になった人が増え、健康二次被害が懸念される中、生活習慣病の予防や改善、膝や腰の痛みの解消など、運動・スポーツの医学的効果が改めて見直され、重要性が高まってきています。 誰もが安心して、安全かつ効果的な運動・スポーツを楽しめる環境確保のためには、医師・医療関係者が現在の運動・スポーツに関する施策を理解し、 運動・スポーツに携わる人たちと連携することが鍵となります。しかし、最も重要なことは私たちが 安全で効果的、そして楽しく運動習慣をつけることだと思います。

   (文化部 北條みどり)