政府は現行の健康保険証を2024年12月に廃止する方針だが、代わりとなるマイナ保険証の利用率は、 廃止まで半年余りとなった5月時点でも7.73%にすぎない。
政府がマイナ保険証の利用促進キャンペーンを始めた5月、利用率が上昇したが、厚生労働省担当者は「利用促進事業が奏功していることに加え、確認されていた紐付け誤りへの対応が完了し、安心して使っていただける環境が整ったからだ」と説明している。しかし、4月(6.56%)から1.17ポイント伸びただけで、依然として低水準にとどまっている。
マイナ保険証は、マイナンバーカードに保険証機能を持たせたものだが、便利なら利用率は上がるだろう。
どんな便利さがあるか、厚生労働省などのサイトを調べてみた。
1.マイナ保険証で受診すると、高額療養費の限度額を超える支払いが確実に免除される。
→従来の保険証で受診しても、患者が申し出れば確認できる。
2.従来の保険証では転職などで新しい保険証発行に時間がかかり、診療報酬請求が差し戻される問題が発生するが、マイナ保険証では解消される。
→従来の保険証でもオンライン資格確認システムの活用で、問題は防げる。
3.顔写真付きのマイナ保険証への切り替えで、他人の不正利用を防げる。
→なりすましなど不正利用が市町村の国民健康保険で確認されたのは2017年からの5年間で50件と少ない。
4.データ提供に同意すると、薬の履歴データや特定健診結果が得られる。
→薬の履歴などはレセプト情報によるため、1、2ヶ月前の情報しか得られない。
直近の薬が重要なので、結局お薬手帳を見ることになる。
電子処方箋は医療機関の2%で使われるだけで、全く普及していない。
5.医療機関での受付が自動化する。
加入する健康保険の内容や本人確認を非接触かつ自動で行えるため、素早く効率的に受付を済ませられる。
→慣れない患者は、顔認証付きカードリーダーの操作などに職員の補助が必要で、反って時間がかかる。
以上マイナ保険証の便利さは、従来の保険証でもできている事がわかり、必須ではないことがわかった。
それでは、マイナ保険証のデメリットは何だろうか。
1.マイナ保険証の紐付け 誤りの問題が多発している。
マイナ保険証に関して言えば、いろんな保険制度が混在していて、デジタル化するのに構造的な難しさがある。
3千を超える保険者がそれぞれ個別にデータを管理しているため、正確な維持管理が難しく、制度の複雑さが相まってシステム化するのが非常に困難で、それぞれの保険者ごとにマイナンバーを紐付けているが、財政基盤が弱く十分な資金や人手をかけられないところもある。
本来であれば、健康保険制度そのものを簡略化するなど、すっきりしたものにしないとデジタル化は難しい。
日本のデジタル化の課題は、デジタル化の裏にある制度が複雑過ぎることにある。
2.医療機関の受診手続きに時間がかかる。
今までは受付で健康保険証を手渡すだけで良かったのが、受診者自らマイナ保険証でオンライン資格確認することになる。
高齢者が多い医療機関では手順の説明や手続きに余分な時間かかる。
3.確認できる薬剤情報はレセプト情報を基にした1ヶ月以上前のデータである。
現在あるお薬手帳の方がタイムラグもなくよほど実用的である。
4.マイナ保険証になれば紛失した時のリスクは高まる。
さらに医療機関へのサイバー攻撃などによる医療情報漏洩のリスクを医療機関が抱えることになる。
5.個人情報漏洩リスクは拭えない。
マイナンバーカードと4桁のパスワードが必要なマイナ保険証は、認知症等の人は管理できない。
認知症等でなくても、カードとパスワードは犯罪者の格好のターゲットになりうる。
政府は、システムへの入り口として、マイナンバーカードありきの姿勢で、ひとつの認証方式で何でもできるために一見は便利なように思えるが、全ての業務手続きの認証を一つの印鑑(例えば実印)でやる発想に近く、実印を常に持ち歩くような状態になるため、マイナンバーカードと4桁のパスワードは犯罪ターゲットとなりうる。
マイナ保険証のメリット、デメリットを調べてみると、健康保険証に代わるほどの便利さはなかった。
健康保険証廃止は有害無益で論外だし、少なくとも電子処方箋などのマイナ保険証の機能が普及して、医療機関や患者の信頼を得られた後に検討する話だろう。
(審査指導対策部長・医科 長沼誠一)