新たな地域医療構想等に関する検討会が厚労省で継続的に開催されている。令和6年9月30日に開催された第9回検討会では「医師偏在是正対策について」が議論された。そこでは「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの検討について」の「取組の方向性案」として、開業規制などを含む規制的手法での偏在対策の手法が示された。詳細は厚労省のホームページ内に掲載されているのでそちらをご覧いただきたい。医師が過剰になっている地域での開業を制限するような議論も出ていた。また、保険診療の実績を鑑みて開業時の要件にするといった案も出た。しかし、医師偏在対策だけに焦点を絞るべきなのかは甚だ疑問である。労働力不足・人手不足はどのような産業であっても叫ばれて久しく、人員過多の職種は残念ながら見かけたことが無い。医師偏在是正については一定の見解や具体的な数値目標も設定されている。二次医療圏ごとの必要人数の割り出しや、各種難解な数式を使用した医師必要数の算出など。数字だけでは見えないものも多々あろうと思われる。どうしても高齢者医療に論点が集中してしまうが、医師が少ない地域では小児から高齢者までを診療せざるを得ない状況がある。

 この中で、地域医療支援病院の管理者の要件について、現行では医師少数区域認定医師(2020年度以降に臨床研修を開始したものに限る)とするものを、今後病院の範囲を拡大することや、現行では6か月の勤務であるところを1年に延長するという案も出ていた。そこで、「医師少数区域経験認定医師」という制度について詳しく紹介することとする。

 以下、関東信越厚生局のホームページを一部抜粋して紹介する。

医師少数区域等における勤務の促進のため、医師少数区域等に一定期間(6ヵ月以上)勤務し、その中で医師少数区域等における医療の提供のために必要な業務を行った方を厚生労働大臣が認定する制度です。

※認定の対象となるのは、2020年4月1日以降の勤務となります(臨床研修中の期間を除く)。

https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/iji/newpage_00283.html

 では、当該制度についてどのようなインセンティブがついているかというと①医師少数区域に勤務する医師に対しての研修費や書籍代などの補助金が出ること(医療機関に対して)②医師少数区域での新規開業をする場合の融資条件の優遇融資が得られることがある。読者の中には2020年度以降に医師になったものしか申請できないと思う方もいるであろうが、ここは前出の管理者要件のことと先ほどの補助金のことを同様に捉えていることによるものと思われる。当該制度を申請したものは、全国で累計507人しかいない(令和5年3月末時点)。では、医師少数区域はそんなに要件が厳しいのかというと、群馬県は以下の市町村で、該当する市町村は多くある。

・渋川市、榛東村、吉岡町、伊勢崎市、玉村町、桐生市、みどり市、太田市、館林市、板倉町、明和町、千代田町、大泉町、邑楽町、みなかみ町、中之条町、東吾妻町、長野原町、嬬恋村、草津町、高山村、上野村、神流町

 その中でも申請者の数が少ないのはおそらく上記のような誤解が生じている部分があると思われる。書籍費や研修費などの補助金について、群馬県医務課に問い合わせたところ、予算を組んでいないので補助することが出来ず、また、申請者の数も少ないため対応できないという返事であった。当該制度は、厚労省が進めており、医療法にも制定されている認定なのにも関わらず群馬県としては予算をたてていないらしい。そして、補助金制度については各都道府県の対応に任されている。例えば、長野県では補助金制度にしっかり予算がついている状況になっている。

 認定要件については、地域住民への継続的な診療及び保健指導、住み慣れた地域での生活を支援する業務(地域ケア会議の出席や介護認定審査会などではあるが、退院調整を行っている病院勤務医でも要件は満たす)、地域住民に対する健康診査の3つが要件である。この3つの詳細については、「医師少数区域認定医師」で検索すれば様式がご覧いただけるので参照されたい。

 医師偏在是正の議論で医師が少ない地域で働く医師に対して、インセンティブをつけようとする議論が出ているにも関わらず、各都道府県の判断で補助が出たり出なかったりするのはいかがなものだろうか。開業医、勤務医を問わず申請できる認定なので、医師少数区域で働いている方は是非申請していただきたく思う。

  (研究部・医科 金子稔)