群馬大学オートプシー・イメージングセンターにおける死後画像撮影について

群馬大学大学院医学系研究科法医学講座 佐野 利恵

【はじめに】

群馬大学大学院医学系研究科オートプシー・イメージングセンター(以下、Aiセンター)は平成20年(2008)10月から稼働しており、主に死因究明及び医学教育に役立てられています。

【センターの概要】

平成20年4月に群馬大学附属病院新中央診療棟の建設に伴って、最新鋭の診断機器が導入される運びとなり、従来使用されてきたエックス線CTが余剰のため、廃棄処分されることとなりました。このため、同年10月から、廃棄予定だった1列ヘリカルCT(東芝社製Asteion/KG)を法医解剖室隣の旧病理解剖室(その当時は空き部屋)に設置して、Aiセンターの稼働が開始されました。

Aiセンターは附属病院放射線部の協力のもとCT撮影と読影が行われています。初年度にあたる平成20年度の撮影件数は約50件でしたが、徐々に撮影件数が増加し、令和3年度は約500件となっています。(図1)

【医学教育における効果】

解剖学教育においては、(1)人体構造の3次元的理解を促進すること、(2)病変の肉眼所見とCT画像を対比し考察すること、等を目的に画像教育に融合した人体解剖学実習を実施してきました。解剖献体の搬入時にAiセンターでCT撮影を行い、画像を放射線科医が読影し、レポートを作成します。人体解剖実習時に、学生はそのレポートを参照しながらiPadの画像を見て、実際の人体構造との比較を行いながら解剖学実習を行います。さらに、解剖学実習には放射線科医師も参加して、画像読影の指導に当たっています。その結果、平成29年度(2017)に受審した医学教育分野別評価の「6.教育資源の概評」において「教育実践に必要な施設・設備を整備し、学習環境を改善する努力を継続している。特にAiセンターの活用やスキルラボの整備は評価できる」とAiセンターは高い評価を受けました。

【法医解剖における効果】

法医解剖においては、全例に死後画像検査を導入しており、以前は診断困難であった気胸、空気塞栓、脊椎骨折等の診断が容易となりました。画像情報を利用することにより解剖の効率化が図られ、精度を増した死因検索が可能となっています。また、死後画像から構築された3Dイメージは裁判員裁判資料として活用されています。加えて、CT血管造影を行うことで心臓の病理検索の精度が増しました。このように法医学講座においては、古典的な解剖手技に死後画像CT検査を加えた統合型の死因検索を実践し、解剖検査を深化・高度化しています。

さらに、放射線診断学とは別に、法医学領域特有な画像読影のポイントや死後画像の利用方法があることに気づき、症例を報告してきました。例えば、(1)消化管内容物への注意(薬物による高吸収域の存在)、(2)死後変化が高度な死体の頭蓋内出血、(3)体表・体内の金属片の検索(凶器の破片、銃弾の破片)、(4)凶器と損傷の関係等です。特に、体表・体内の金属片の検索は犯罪捜査に重要で、死後画像に基づき体内から回収した金属片と、後に逮捕された被疑者が供述した成傷器が一致したことで、被疑者供述の信憑性が確認できた事例を経験しています。

【地域の死因究明における効果】

死体検案は、警察による死者に関する環境捜査、薬毒物検査、個人識別等を元に実施されています。検案医師は後頭下穿刺と同等な参考資料として、Aiセンターが提供した死後画像を利用し、死因の決定を行います。死後画像の読影は、臨床的な画像診断の知識に加えて、死亡時や死亡前の情報収集、虚偽の情報の見極め、死後変化や蘇生術後変化等への注意が必要です。群馬県では検案の約半数においてPMCT(postmortem CT)が実施されており、詳細な外表検査、死後画像と死亡前後の状況等に関する警察の捜査に基づいて死因の決定がなされています。PMCTが重要な病変や損傷を明らかにすることがありますので、PMCT無しの検案よりもPMCT有りの検案の方が明らかに診断精度は向上します。

死後画像の読影には死後変化への注意が必要と述べました。死後には血液循環が停止し、死体現象が出現しているため、通常のCTイメージ(臨床検査)とは異なり、脳の皮髄境界の不鮮明化、肺野の血液就下、胸腔内の液体貯留、肝門脈ガス像等の変化が見られます。また、蘇生術後の変化として、肋骨骨折、心膜液貯留等が観察されることもあります。以上のような理由から、死亡時画像診断をするには臨床的な画像診断の知識のみでは不十分ということになります。

このため、群馬大学Aiセンターにおける死後画像の読影は、検視担当警察官や所轄の警察官の立ち合いのもと、死亡に至る経緯や死亡後の状況等の情報提供を受け、これらを十分に加味したうえで読影を行っています。また、CT撮影後に読影した医師が死後画像に関するコメントを伝えますが、死因の決定は検案医師の役割となっており、読影医師が検案を担当することはありません。

ところで、群馬県内においては、異状死体の約半数において死後画像が撮影されていますが、CPA症例や死後経過時間の短いご遺体については搬送先の病院や県内の協力病院において撮影がなされます。群馬大学Aiセンターは死後変化があるご遺体を撮影する頻度が高く、群馬県内の死後画像撮影は階層化されています。

【今後の展望】

高齢者の増加から異状死体数の増加が見込まれ、Aiセンターにおける撮影依頼が増えることが予想されます。さらに、解剖献体を利用した臨床トレーニングを行う手術手技研修センターが平成31年(2019)に群馬大学に設置され、その研修の一助として死後画像撮影をAiセンターが担当しています。即ち、Aiセンターは医学生の解剖学教育、地域貢献に加え、臨床医の研修に貢献する施設となり、医学系研究科・附属病院の教育環境の一環として、そのプレゼンスを一層高めることになります。

【むすび】

Aiセンターの業務内容は医学教育から社会貢献と幅広く、また、死後画像の導入は解剖学教育と法医解剖において明らかに有効でした。この取組は群馬大学大学院医学系研究科からの全医学部的な支援を得て実施されており、これがAiセンターを継続できた理由のひとつであると言えます。今後も、群馬大学Aiセンターを核とした県内の死因究明を推進したく思います。諸先生方のお力添えをよろしくお願いいたします。

図1 群馬大学Aiセンターにおける死後画像撮影件数