頭痛診療について
みずしま脳神経内科・内科クリニック院長 水島 和幸
日本では約3,000万人の慢性頭痛患者がいるといわれている。頭痛には「一次性頭痛」と「二次性頭痛」があり、これらは、現在『国際頭痛分類第3版(ICHD-3)』(日本頭痛学会)の大分類に沿って診断されている。
一次性頭痛は片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛、その他の一次性頭痛に分類され、群発頭痛は三叉神経・自律神経性頭痛に含まれる。二次性頭痛は、くも膜下出血や脳腫瘍など、何らかの疾患があるために二次的な症状としておこる頭痛である。原因は多岐にわたり、頭頚部外傷・傷害、頭頚部血管障害、非血管性頭蓋内疾患、物質またはその離脱による頭痛(以前の薬物乱用頭痛、現在の薬物使用過多による頭痛[MOH]が含まれる)、感染症、ホメオスタシス障害、耳鼻咽喉科・眼科・歯科疾患、精神疾患の8つに分類される。
今回は、この中で日常診療においてよく遭遇する頭痛について解説する。
片頭痛の有病率は約6~8%で、就労年代の有病率が高く、薬代や診療代などの出費のみならず、就労困難による社会的損失も少なくない。前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大別され、それらはギザギザの光が見えるような症状の有無により判断される。片頭痛がおこるメカニズムについて、最も有力な説が三叉神経血管説で、何らかの刺激により頭蓋内・硬膜血管に分布している三叉神経終末が興奮し、片頭痛発作を起こすというものである。しかし、この説は「何らかの刺激」が何であるか、前兆がなぜ起きるのかは説明できず、メカニズムの解明には至っていない。PETやfMRIを用いた研究で片頭痛発作は、頭痛前兆期以前に既に視床下部の異常が認められることが明らかになっている。片頭痛の薬物療法は急性期治療と予防療法に分けられる。中等度~重度の頭痛、または軽症~中等度の頭痛でも、過去にアセトアミノフェンや非ステロイド系消炎鎮痛剤の効果がなかった場合にはトリプタンが推奨される。本邦では5種類10剤形のトリプタンを使用でき、それぞれの特性により使い分けられる。本年、新たな機序の片頭痛治療薬として、セロトニン受容体作動薬のLasmiditanが承認された。脳・心血管障害の既往のある患者にも使用でき、内服タイミングが遅れることにより起きるアロディニアが起きにくいので、服薬タイミングにかかわらず効果を期待できるが、めまい、ふらつきの副作用が生じやすいことが難点である。予防療法は、急性期治療だけでは生活障害を十分に改善できない時に考慮され、月に2回以上、あるいは生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある患者に勧められる。『頭痛の診療ガイドライン2021』(日本神経学会)では、各予防薬に関してエビデンスの質や推奨グレードを設けている。最も有効と思われる群(Group1)では、2021年に使用可能となったCGRP関連製剤がある。これらは月(4週間)に1回の皮下注射で、大きな副作用もなく効果が期待できる薬剤であるが、安価な薬剤ではないことが問題となる。また、経口薬のCGRP受容体拮抗薬であるgepantも開発されていて、CGRP関連製剤と同等の効果を示している。
緊張型頭痛は、一次性頭痛のなかで最も頻度の多い頭痛で、生涯有病率は70%以上になるといわれている。緊張型頭痛のうち、月に15日以上頭痛が起こるものを慢性緊張型頭痛、それよりも回数が少ないものを反復性緊張型頭痛という。緊張型頭痛は頸部や頭部の筋緊張が強くなったために痛みを感じる場合と、脳の神経回路が変調をきたして痛みを感じる場合があるが、両方が混在していることも少なくない。うつ病との関連も指摘されており、症状が続くことでうつ状態になることもある。MOHの誘因となり、共存することも多い。対処法は、さまざまな症状やメカニズムが関与していることもあり、誘因や随伴症状を考慮して、個々にあった方法を検討する必要がある。運動や体操が有効なこともあり、内服薬では、消炎鎮痛剤、中枢性筋弛緩薬、抗うつ薬(三環系、SSRI、SNRI等)が用いられ、有効なこともあるが難治であることも多い。
三叉神経・自律神経性頭痛は群発頭痛、発作性片側頭痛、短時間持続性片側神経痛様頭痛発作、持続性片側頭痛に分類され、一側の激痛発作と同側の頭部副交感神経系の自律神経症状を特徴とする。群発頭痛は主に20歳代以降の働き盛りの男性に多くみられる頭痛であるが、最近では女性に発生するケースも増えている。反復性群発頭痛と慢性群発頭痛に分類され、7日から1年間続く群発期が、3か月以上の寛解期を挟んで2回以上あれば反復性群発頭痛と診断し、寛解期が無いか、あっても3か月未満であれば慢性群発頭痛と診断する。群発頭痛は激痛発作により日常生活に多大な支障を及ぼす。特に長期間におよび激しい頭痛発作を繰り返す慢性群発頭痛は、疾患そのものによる支障度だけではなく、社会的支障度も極めて高い。急性期治療の第一選択はスマトリプタンの皮下注射と高濃度酸素吸入である。予防治療はベラパミル塩酸塩、ステロイド、炭酸リチウム、バルプロ酸ナトリウム、ガバペンチン、トピラマートなどがあるが強く推奨されている治療法はない。欧米では、片頭痛治療薬のCGRP関連製剤のガルカネズマブが群発頭痛の予防薬として用いられている。 MOHは鎮痛薬やトリプタンなどの急性期頭痛治療薬を慢性的に使用することにより出現する。近年、増加傾向にあり、トリプタンの方が早期よりMOHをおこしやすい。頭痛の性状としては、片頭痛と緊張型頭痛の特徴を有する頭痛がほぼ毎日あり、多くはすでに起床時から頭痛が存在する。MOHの治療の大原則は、起因薬剤の中止であるが、非常に困難な場合が多い。予防薬としてアミトリプチリンが有用である。