糖尿病診療のQ&A
清水 弘行
糖尿病診療は日々進歩しています。本稿では、最近の糖尿病診療の進展を踏まえた上で糖尿病を専門とされてはいらっしゃらない先生方からよく御質問いただく、糖尿病診療に関するいくつかのテーマについて断片的にはなるとは思いますが、私なりにQ&A形式にて概説させていただきたいと思います。
Q1 はじめて高血糖の患者さんが受診されたら、どうしたらよいでしょうか?
A1 まず血糖値やHbA1cの測定とともに一般検尿検査を実施していただき、尿中ケトン体の有無を確認されることが大切です。一般的に尿中ケトン体が2+以上でしたら、絶食状態が長期的に続いていた場合以外にはインスリン欠乏状態を伴った糖尿病状態が疑われます。また同時に測定されたHbA1cと血糖値との間に乖離がみられる場合(具体的には血糖値が300 mg/dL以上なのにHbA1c 6.0 %未満であるような場合)には急性に発症された1型糖尿病が疑われます。このようなケースでは、すみやかなインスリン治療の開始が必要な場合が多くなりますので糖尿病専門医が常勤する病院への紹介が必要になります。一方、血糖値やHbA1c が高い値でも尿中ケトン体が陰性な場合は、ゆっくりとした血糖コントロールの改善が望まれますので生活習慣の指導をしていただき、1~2週間ごとにその改善を経過観察していただくことも可能かもしれません。HbA1c 10 % 以上など高血糖状態が長期間継続していたと考えられる患者さんが入院なされ結果的に急激な血糖改善となられた場合には眼合併症などの悪化が危惧されます。眼科専門医からはそのようなことを防止するためにも1か月にHbA1c 0.5~1.0 % 程度のゆっくりとした血糖コントロール状態の改善が要望されています。
Q2 血糖コントロールの目標はどのように設定していますか?
A2 現在、年齢や併存疾患の有無などを考慮した患者さん毎の目標設定が推奨されるようになっています。65歳未満で合併症のない方は、まずは糖尿病性細血管障害を中心とした合併症の出現、進展防止の観点からHbA1c 7% 未満を目指します。しかしながら65歳以上の高齢者では、図1に引用させていただきましたように認知症の進行度合いや使用されている糖尿病治療薬の内容によりコントロール目標を緩和しなくてはなりません1)。特にインスリン注射療法やスルフォニル尿素(SU)剤、グリニド薬のように血糖値に依存することなくインスリン分泌を促進してしまうような薬剤を服用されている患者さんでは下限が設けられるようになってきており、下げすぎないことが重要となります。自分で対処できないような重篤な低血糖を生じてしまうと、心血管や脳血管のイベント発症の要因になるとともに、将来的な認知機能の低下リスクを上昇させてしまう可能性も指摘されておりますので注意が必要です。
Q3 初めての糖尿病治療薬の選択と治療を強化する場合の薬剤選択について教えてください。
A3 前述のように明らかなインスリン欠乏状態にある患者さんでは、すみやかなインスリン補充の開始とその欠乏状態により、強化療法やインスリン・ポンプ療法が必要となりますが、一般的な2型糖尿病の患者さんでは、生活療法にても改善が認められない場合の治療アルゴリズムについて欧州と米国の糖尿病学会(EASD、ADA)が提唱する患者さん毎の状況に配慮した治療アルゴリズムがあります2)。毎年年始めにその改訂がなされておりますので、是非最新のものを参考になされてみてください。基本的にはメトホルミンが第一選択とされています。また日本の糖尿病学会でも最近同様な治療アルゴリズムが作成され、提示されています3)。日本人は欧米の人に比べて体格も異なり、遺伝的背景も異なり、インスリン分泌能も異なりますので患者さん毎のインスリン分泌能に配慮した薬剤選択が必要となります。
Q4 最近の治療薬剤の進歩について教えてください。
A4 近年は、低血糖を生じにくいとされるインクレチン関連薬が多く用いられるようになっています。インクレチン関連薬には、経口剤では比較的使用開始が容易なDipeptidyl Peptidase-4 (DPP-4)阻害薬と経口Glucagon-Like Peptide-1 (GLP-1)受容体作動薬があります。また注射薬剤ではこれまでGLP-1受容体作動薬が用いられてきましたが、昨年春よりGlucose-dependent Insulinotropic Polypeptide (GIP)/GLP-1受容体作動薬が上市され、長期処方も可能となってきています。いずれも週1回、簡便なデバイスで自己注射の実施が可能であり、充分な効果が得られる製剤が使用されるようになってきています。インクレチン関連薬に共通な注意点は、特に使用開始時に多く見られるようですが、嘔気や便秘などの消化器系の副作用があります。その際、対症的に対応可能ではない場合には、薬剤の減量、休薬が必要となることもありますので、投与開始後1~2か月間は特に注意が必要となります。
またインスリン治療中の患者さんでは、食事の遅れや運動量の増加などによる低血糖に注意が必要です。糖尿病性合併症、特に神経障害を有すると思われる方では、自律神経障害や急峻な血糖降下による無自覚性低血糖の出現に注意が必要です。そのような場合には、糖分摂取だけではなく、グルカゴン製剤の使用も必要となることがあります。最近では、経鼻粉末製剤で簡便に鼻腔に噴霧投与が可能な製剤が発売されておりますので、そのような低血糖発作が危惧される患者さんにおいては携行していただくとよろしいかと思います。
【参考文献】
1)日本糖尿病学会.高齢者糖尿病治療ガイド 2018.文光堂.
2)American Diabetes Association Professional Practice Committee. Standards of Care in Diabetes-2024. Diabetes Care 47 (Suppl.1), 2024.
3)日本糖尿病学会コンセンサスステートメント作成に関する委員会.2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム.糖尿病 65 (8): 419-434, 2022.