被災地や医療過疎地での応用を目指した「移動型歯科クリニック」の実証実験とその報告
日本遠隔医療学会 歯科遠隔医療分科会 会長 長縄 拓哉
はじめに
近年、大規模災害の発生により、被災地における歯科医療支援の在り方が改めて注目されている。阪神・淡路大震災では、震災関連死の24%が肺炎によるもので、その多くは、口腔ケア不足や義歯の紛失などが原因とされる誤嚥性肺炎であったと報告されている1)。
また、平時においても日本の医療アクセスは深刻な課題を抱えている。75歳以上の高齢者世帯の約20%が、自宅から最寄りの医療機関まで1km以上離れており、運転免許の返納や公共交通機関の減少により、多くの高齢者が「医療難民」となるリスクに直面している。特に要介護状態の高齢者のうち64.3%が歯科治療を必要としているにもかかわらず、実際に受診できているのはわずか2.4%という現状がある2)。
このような背景から、著者らは医療MaaS車両を用いた「移動型歯科クリニック」を提案し、 被災地や過疎地における新たな歯科医療支援モデルの構築を目指し、阪神・淡路大震災から30年の節目に、神戸市にて体験会を実施した。
事例と結果
イベントタイトル | 移動歯科クリニック体験会 |
日時 | 2025年1月17日(金)・18日(土)・19日(日) |
場所 | 神戸ハーバーランド高浜岸壁 (兵庫県神戸市中央区東川崎町1丁目6-1) |
実施内容 | 次世代歯科医療サービスの体験会 (歯科医による歯科検診、口腔内スキャン等) |
受診費用 | 無料 |
受診方法 | 当日の来場者を順次案内 |
3日間の体験会では、医療MaaS車両「MedaaS」内に設置された診療スペースにて、歯科医師である著者による歯科検診を実施した。検診では、一般的な口腔内の状態確認に加え、誤嚥性肺炎予防の観点から、口腔ケアの重要性について説明した。来場者からは、「災害時の口腔ケアについて具体的なアドバイスが得られて良かった」「自宅近くでこのような診療が受けられるのはありがたい」との声が寄せられた。
また、車両に搭載された最新の歯科診療機器や、乗降口のサイドステップ、車椅子専用リフトなどのバリアフリー設備は、医療アクセス改善の新たな可能性を示すものとして、多くの来場者の関心を集めた。特に、その場での口腔データの迅速な取得から義歯製作までの一貫したデジタルソリューションは、災害時の歯科医療支援における新たな可能性を示すものとなった。
本体験会は、著者と医療MaaSを推進する木下水信医師の監修のもと、最新の口腔内スキャナーやデジタルデンチャー技術を搭載した医療MaaS車両「MedaaS」による歯科検診を実施し、被災地での医療支援の新たな可能性を示す取り組みとなった。阪神・淡路大震災の事例からも明らかなように、災害関連死の多くが肺炎によるものであり、その背景には口腔ケア不足がある。災害時における口腔ケアの重要性を社会に広く発信する必要性を認識することができた。
また、日常における要介護高齢者の医療アクセスの課題に対し、医療MaaS車両「MedaaS」による新しい歯科医療の提供モデルを実証することができた。具体的には、身体的、精神心理的要因で外来受診が困難な患者や、在宅医療、訪問診療を受けられない理由(医療過疎、訪問歯科医師少数地域など)がある場合に、医療MaaS車両が近隣まで乗り入れ、外来診療と訪問診療の間を取り持つ形での診療提供が可能となる。車内での治療は、訪問診療で使用されるポータブル歯科医療機器を持ち込めば、う蝕の治療や歯周病の治療、簡易な手術などが施行できる。さらに、車内のモニターを用いて各種遠隔診療(D to P with DH※, D to Dなど)を行うことができ、地域の需要や特性に合わせてアレンジすることも可能だ。
本体験会は、災害時の医療支援と平時の医療アクセス改善という二つの社会課題に対する具体的なソリューションを提示し、今後の地域医療の新たな可能性を示す意義深い機会となった。
※DH:歯科衛生士
まとめ
医療MaaS車両「MedaaS」を用いて、移動型歯科クリニックの実証実験を行なった。口腔内スキャンからデジタルデンチャーの製作まで行い、新たな可能性と課題を見出すことができた。
参考文献
- 神戸新聞.災関連死の実態調査報告.2004年5月14日.
- 平野浩彦ほか.フレイルおよび認知症と口腔健康の関係に焦点化した人生100年時代を見据えた歯科治療指針作成に関する研究.日本歯科医学会誌.2022,vol.41,p27-31.


