小児心身医療における自然療法の臨床的意義

 鳥山医院  髙間 倫子

 私はコロナ禍に依頼されたオンライン講演会「高間先生の心身から診る小児科シリーズ」をきっかけに、複数の出版社からお声がけいただき、文芸社から『子どもの心にどう寄り添う?-不登校・思春期・発達障害との向き合い方』を出版しました。

 近年、不登校児数の急増に伴い、小中高生の自殺者数も増加傾向にあります。少子化が進み、日本全体での自殺者数は減少傾向にあるにもかかわらず、2025年1月に公表された警察庁・厚生労働省の自殺統計(暫定値)によると、2024年の児童生徒の自殺者数は527人(2023年確定値:513人)と過去最多を記録しました。また、2018年度全国児童相談所調べによる「児童相談所の実態に関する調査」では、虐待を受けた子どものうち11.4%に発達障害の疑いがあるとされました。子どもの貧困、ネット・SNSに起因するいじめや犯罪被害といった問題が複雑に絡み合い、現代医学の発展により治る病気が増えているにもかかわらず、心の問題を抱える子どもは増え続けています。このような社会では子どもが未来に明るい希望を持つことはできません。子どもを取り巻く環境は非常に厳しい状況と言えるでしょう。

 書籍ではこのように現代社会に生きづらさを感じる子どもにどのような対応をしていくべきなのか解説しています。本紙では診察室での事例を3つ紹介します。

 中学2年生のAさんは、半年前からめまいや全身倦怠感が続いていましたが、検査では異常が無く、東京や横浜などの様々な医療機関を受診しても症状が改善しませんでした。診察室に入ってきた様子から運動不足気味な顔色だったので、少し一緒に散歩してみようと提案しました。ちょうど実りの秋、医院に隣接する庭で一緒に有酸素運動を取り入れた散策を行い、池の金魚を眺めたり、栗拾いや柿の実をもいだりしました。すると、突然その子の目が輝き出すようすが見られました。それ以降、改善がみられなかった症状が回復し、本人も非常に喜ばれ、大変な効果を実感しました。思春期の患者さんを診療するときは、親からの自立と依存の狭間にある両価感情(拒絶と依存の混在)を理解し、目の前の問題を解決するだけではなく、「その子どもがどうなりたいのか」「そのために今何ができるか」という目標に寄り添うことを心がけています。

 中学1年生のBさんは、場面緘黙がありました。小学校5学年から不登校で、中学校へ進学するも、不安感・恐怖感などから内向的なようすでした。気持ちを外に向けるため、自然豊かな畑に連れていき、柿・栗・あけび・柘榴を見たり、深呼吸をしたりしました。すると徐々に行動的になり、再度診察した所、最初の診察時とは別人のような健康的なようすに変化していました。その散策だけで、従来使用していた薬も大幅に減り、非常に感謝されました。現在、他の患者さんも時間を見ては積極的に、一緒に庭のつつじや四季折々の花々を楽しみ、自然を探索しています。

 3歳のCさんは筋ジストロフィーの診断がついています。知能検査を含めた診察で来院し、待合室でずっと泣き続けている状態でした。ご両親から実家で猫を飼っていると聞いたので、医院の裏の家の猫に会わせてみたところ、顔つきがパッと明るくなり、急にしっかりと歩き出すようになりました。ご両親は言葉の遅れも心配されていたのですが、猫を相手に言葉をどんどん発する姿に涙していました。

 発達障害などは環境との不和から生じるので、自然の中で身体を動かしたり、動植物とふれあったりして新たな発見をすることで、治癒に至るケースも少なくありません。森林浴や、医院内の卓球室での有酸素運動を取り入れるなど、「患者さんの生きる力」を信じた治療を実践しています。病気だけでなく、現代の複雑化するSNS社会によるストレスの解消や自然治癒効果を含め、子どもたちとそのご家族が様々な困難を乗り越えながら成長されていく姿に、私自身も医師として、人間として、日々成長させられています。

散策庭木等(2025年3月)

杉:1本(樹齢約140年)、欅:2本(樹齢140年以上・100年以上)、黒松:大1本・小2本、銀杏:1本(樹齢100年以上)、糸ヒバ:大1本(樹齢120年以上)・中1本、百日紅:大1本(約130年)・2本(約100年)・小1本、柿(甘・渋):計6本(うち1本は樹齢150年以上・3本は約100年)、つつじ:2山(大・樹齢100年以上)・山つつじ他多数、梅:大1本・小1本、木斛(もっこく):1本、モチノキ:1本、柘植:2本、山茱萸(サンシュユ):1本、あおりの木:2本、ヒバ:多数、あけび:2本、ビワ:1本(約80年)、栗:1本(約80年)、千両・万両:各1本、バラ:大1本・小1本、八手:1本、榊:3本、もみじ:1本、牡丹:2本、沙羅:1本、ザクロ:1本、南天:無数、満天星つつじ:4本、竹林:裏庭にあり、苔群:大小2つの池周囲に無数

医院に隣接する庭のようす