「新型コロナウィルス罹患後症状(コロナ後遺症)」に向き合う

群馬大学大学院医学系研究科・総合医療学  佐藤 浩子、小和瀬 桂子

緒言

 新型コロナウィルス感染症(Coronavirus disease 2019:COVID-19)のパンデミック開始から4年が経過した。COVID -19に罹患後、一定期間が過ぎても何らかの症状を有する症例がある。WHOはCOVID-19に罹患後3ヶ月以上経過し症状が2ヶ月以上持続するものをpost COVID-19 conditionと呼称し定義した1)。厚生労働省は「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント」を編集、COVID-19罹患後症状と呼称し、2023年10月には改訂第3版を発刊した2)。この中で「罹患後症状を訴える患者へのアプローチ」の項には、医療面接の手法や症状アセスメントツール、症状別の検査項目、患者説明のポイントなどが追加された。治療に関しては、患者に寄り添う全人的のフォローの重要性のほか日常生活指導や精神的サポートに関して、さらには難治例・社会復帰困難例への対応として、リハビリテーションや診断書の書き方なども記載されている2)

 日本独自の治療体系である漢方医学では、一人一人の複数の症状や身体所見の「組み合わせ」から診断を行う。例えば、「だるい、食欲がない、気力がない」などの「組み合わせ」から「気虚」を想起し、「気虚」としての漢方治療に直結する。

 このような背景の元、総合診療科では、COVID-19罹患後症状の診療に取り組んでいる。今回、その取り組みを紹介し、COVID-19罹患後症状の診療に関し考察したい。

COVID-19罹患後症状の診断から治療まで〜当科での取り組み

 総合診療科では、COVID-19罹患後症状を含む初診の患者に対する医療面接で、標準的な医療面接法LQQTSFA法(Location:部位、Quality:性質、Quantity: 程度、Timing: 時間経過、Setting:状況、Factor:増悪・寛解因子、Associated manifestation: 随伴症状)3)を用いて詳細な病歴聴取を行う。また、本人が今回の症状に関して「どのように解釈し、何を希望し、どのような感情を抱き、どのように生活に支障があるか」といった解釈モデル4)を聴取する。このような「患者中心の医療5)」を心がけることで、良好な患者-医師関係を構築することは、COVID-19罹患後症状に向き合う上で極めて重要と考えられる。

 症状のアセスメントツールとして、独自に用いた問診票を使用している(未発表のため非掲載)。また、二項目法6)やMAPSO問診7)を用いて精神症状のスクリーニングを行っている。二項目法で抑鬱を疑う症例には、Patient Health Questionnaire-9 (PHQ-9)8)や自己評価式抑うつ性尺度(Self-ratingDepression Scale)9)を用いて評価している。この他、前述の「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント2)」では、身体機能やQOLの評価にPost-Covid-19 Functional Status Scale (PCFS)10)などを紹介しており、参考にされたい。

 患者の有する症状に応じて、診察・検査を行う。倦怠感の患者では基本的な血算・生化学検査の他、内分泌検査も検討する。呼吸困難の患者には歩行試験による酸素飽和度(SpO2)の変化や、胸部X線のほか、d-dimer、心電図、呼吸機能検査、心臓超音波検査などを検討する。

 呼吸器症状や精神症状、味覚・嗅覚異常などに関して専門科診療の必要性が考えられた場合にはコンサルトを行う。症状に応じた対症療法を行うが、当科では特に疲労・倦怠を訴える患者に対し、漢方治療を積極的に取り入れている。

COVID-19罹患後症状に対する漢方

 漢方医学では疲労・倦怠を「気虚」として扱うことが多い。「気虚」とは、文字通り元気・気力が不足した病態である。「疲れやすい」、「気力がない」、「横になっている方が楽だ」などの症状が含まれる。補中益気湯などの補気剤の処方を検討する。

 COVID-19罹患後症状では、各々の患者の有する症状はしばしば多愁訴かつ複雑であり、「気虚」に複数症状を随伴する。

 しびれや脱毛、爪が割れやすい、皮膚乾燥などの症状を合併する場合には、「血虚」の合併を考える。「血虚」とは、栄養が体の隅々まで補給されない病態である。気虚と合併する場合には「気血両虚」と判断し、十全大補湯、人参養栄湯などの気血相補剤の処方を検討する。ブレインフォグを有する罹患後症状症例に対し気血相補剤での治療経験が報告されている11)

 不安や抑うつなどの精神症状を合併する場合には、「気鬱」や「気逆」といった病態を考える。「気鬱」は、抑鬱がベースとなり、詰まる・張るなどの身体の鬱滞症状を伴うものをいう。「気鬱」の「鬱」は、「抑鬱」・「鬱滞」の「鬱」と考えると良い。代表的な治療薬には半夏厚朴湯、香蘇散などがあげられる。「気逆」は、不安・緊張・焦燥がベースとなり、のぼせ・手掌足蹠発汗・動悸などの交感神経緊張症状を伴うものをいう。苓桂朮甘湯などが鑑別処方となる。

 このように、漢方治療はCOVID-19罹患後症状を有する患者に対し、提供することのできる治療の一手段となりうる。しかし一方で、漢方を含めた様々な治療を持っても症状が持続し、社会復帰まで至らない症例も存在する。

総括

 COVID-19罹患後症状の患者に対して、現時点で根本的治療は確立されておらず、対症療法が中心となる。その中で、漢方治療は提案しうる一つの有用な治療手段となりうる。一部の患者では生活に支障をきたすほどの強い症状が残存するため、良好な患者−医師関係を構築した上で、患者と継続的に向き合う姿勢が重要となる。

文献

1)WHO:A clinical case definition of post COVID-19 condition by a Delphi consensus, 6 October 2021.

2)厚生労働省:新型コロナウィルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.0版 2023.

3)Cole SA, Bird J:メディカルインタビュー ―三つ の機能モデルによるアプローチ 第 2 版,飯島克 巳,佐々木将人(翻).東京:メディカル・サイエ ンス・インターナショナル,2003

4)Kleinman, A. (1978). Concepts and a model for the comparison of medical systems as cultural systems. Social Science & Medicine, 12, 85–93.

5)Mead N, Bower P: Patient-centredness: a conceptual framework and review of the empirical literature. Soc Sci Med 2000, 51:1087–1110.

6)Comparison of diagnostic performance of Two-Question Screen and 15 depression screening instruments for older adults: systematic review and meta-analysis. The British journal of psychiatry : the journal of mental science. 2017 ;210 ;255-260.

7)井出広幸,他:ACP内科医のための「こころの診かた」―ここから始める!あなたの心療.丸善出版,東京,2009.

8)Kroenke K, Spitzer RL. The PHQ-9: a new depression diagnostic and severity measure. Psychiatr Ann 2002;32:1-7.

9)Zung WWK. A Self-Rating Depression Scale. Arch Gen Psychiatry. 1965;12:63-70.

10)Klok FA, et al. The Post-COVID-19 Functional Status scale: a tool to measure functional status over time after COVID-19.  European Respiratory Journal 2020 56: 2001494.

11)吉永亮,他.新型コロナウィルス感染症罹患後の著明な全身倦怠感やブレインフォグなどの諸症状に対して漢方治療を行って職場復帰できた一例.日本東洋医学会雑誌.2022; 73: 335-341.