2026年度の診療報酬改定は、地域医療を守るには十分とは言えない内容となった。現在、病院や診療所、医科・歯科を問わず、多くの医療機関が深刻な経営難に直面している。物価高騰や人件費の上昇、医療材料費の値上がりなどにより、医療機関の経営環境は急速に厳しさを増している。その中で保団連は、医療機関の事業継続を確保するため、診療報酬を10%程度引き上げる必要があると訴えてきた。しかし、今回示された改定率は、診療報酬本体で+3.09%(2年度平均)にとどまった。さらに薬価改定などを含めると医療費全体では+2.22%にすぎず、現場の実感からすれば経営改善には到底及ばない水準である。改定内容を見ると、賃上げ対応分は+1.70%とされているが、2025年の人事院勧告による3.62%の賃上げ水準には大きく届いていない。
医療現場では看護師や歯科衛生士などの人材確保が年々難しくなっており、十分な賃上げができなければ離職の増加につながりかねない。また、賃上げや物価対応以外の改定財源はわずかであり、その中には後発医薬品への置き換えを前提とした処方評価の見直しや在宅医療の評価適正化なども含まれている。こうした制度変更は、地域に密着した診療所や中小病院に影響を与える可能性がある。さらに医療DXの推進も、医療機関にとって大きな負担となっている。電子処方箋や電子カルテ共有などの体制整備を評価する仕組みが導入され、医療機関に対応が求められているが、システム導入やサイバーセキュリティ対策には多くの費用と労力が必要である。特に小規模な診療所では負担が大きく、医療機関の経営をさらに圧迫する要因になりかねない。本来、こうしたインフラ整備は国が責任をもって支援するべきである。
歯科医療の現場でも厳しい状況が続いている。歯科の診療行為の評価に充てられる改定率は+0.31%にとどまり、経営改善につながる水準とは言い難い。また、金属歯冠修復に使用される金銀パラジウム合金は市場価格が高騰しているにもかかわらず、保険償還価格が追いつかず、医療機関が持ち出しで治療を行う状況(逆ザヤ)が続いている。保険診療でありながら医療機関が負担を抱える現状は、制度としても健全とは言えない。一方で、CAD/CAM冠の要件緩和など、診療現場の実情に沿った改善もみられる。
しかし、地域医療を守るためには、こうした部分的な見直しだけでは十分ではない。医療機関が安心して診療を続けられる環境を整えることが、結果として国民が安心して医療を受けられる社会につながる。地域医療を支える医療機関の現状を踏まえ、診療報酬のさらなる見直しと十分な財源確保を検討すべき時期に来ているのではないだろうか。
今回の改定において最も問題と感じるのは、提供している臨床内容や患者の状態が従来と変わらないにもかかわらず、評価が一律に引き下げられている点である。歯科疾患管理料が減算となり、再診を基盤とする日常診療に着実な影響を及ぼす。一方で、その補填として歯科衛生士による口腔機能指導等の算定が求められる構造は、実質的に体制整備を前提とした評価とも受け取れる。衛生士確保が困難な現状においては対応できない医療機関も多く、結果として減収のみが残る懸念がある。継続管理を重視しながら、その基盤を弱めかねない制度設計には課題が残る。
さらに、昨今の物価高騰や人件費上昇の状況下において、同一の医療行為に対して実質的な減収となる評価改定は、他業界では考えにくい構造である。通常であれば、コスト増に応じた価格転嫁や報酬の見直しが行われるが、保険医療においてはそれが困難であり、その負担が医療機関側に偏在している。加えて、皆保険制度の維持を前提とする中で、報酬対価や算定要件を通じて医療費が統制的に抑制されている現状も、こうした構造を一層固定化させている要因といえるだろう。
(審査指導対策部・歯科 小山敦)