1.乳がん検診の現状
乳がん検診は、乳がんによる死亡を減らすことを目的に行われている。現在、乳がんによる死亡率を低下させる効果が科学的に証明されている検診方法は、マンモグラフィ検診である。日本では、2004年から40歳以上の女性を対象として、マンモグラフィを用いた乳がん検診が原則として実施されるようになった。現在、厚生労働省の指針では、40歳以上の女性に対して2年に1回のマンモグラフィ検診を行うことが推奨されている。
2.乳がん検診の受診率
乳がん検診の効果を十分に発揮するためには、多くの女性が検診を受けることが重要である。厚生労働省は、がん対策推進基本計画において、乳がん検診の受診率を60%以上に引き上げることを目標としている。この目標は、欧州の医療先進国で乳がん検診の受診率が80%程度に達していることや、乳がん死亡率を低下させるために必要な受診率などを考慮して設定されたものである。
一方、厚生労働省の2022年国民生活基礎調査によると、日本の乳がん検診受診率は47.4%にとどまっており、目標には達していない。受診率を向上させるためには、検診を受けやすい環境を整えることが重要である。例えば、平日に仕事や家事などで時間を確保することが難しい人にとって、休日の検診は受診しやすい機会の一つとなる。群馬県内のほぼ全域で乳がん検診を実施している公益財団法人群馬健康づくり財団では、市町村からの要望に応じて休日にも検診を行っている。また、全国で乳がん検診の啓発活動を行っている認定NPO法人 J.POSH(日本乳がんピンクリボン運動)では、全国の乳がん検診実施機関と協力し、毎年10月の第3日曜日に乳がん検診を行う「ジャパン・マンモグラフィー・サンデー」を実施している。このような取り組みを通じて、検診を受ける機会を増やし、受診率の向上につなげることが期待されている。
3.高濃度乳房
マンモグラフィ検診は、乳がんによる死亡率を低下させる効果が科学的に証明されている。一方で、その効果は年齢によって異なる。50歳以上では、検診による死亡率低減効果が明らかであるとされている。これに対し40~49歳では、マンモグラフィ検診によって死亡率が低下することは認められているものの、50歳以上と比べると、偽陽性や偽陰性などの不利益が増えるため、検診による利益が相対的に小さくなる傾向がある。
マンモグラフィの検査精度に影響する要因の一つが「高濃度乳房」である。マンモグラフィでは、乳腺と脂肪の割合によって、「乳房構成」を脂肪性、乳腺散在、不均一高濃度、極めて高濃度の4段階に分類する。このうち、乳腺の割合が多い不均一高濃度と極めて高濃度は、高濃度乳房と呼ばれている。高濃度乳房では、マンモグラフィ上で正常乳腺実質と乳がん病変部の濃度差が少なく、マンモグラフィだけでは乳がんを見つけにくくなり、乳がんの検出率が低下することが知られている。また、高濃度乳房の人は乳がんを発症するリスクが高いことも報告されている。
2026年3月には、日本乳癌検診学会、日本乳癌学会、日本乳がん検診精度管理中央機構の3団体から、高濃度乳房を含む乳房構成について、国や学会などが連携して各自治体の情報提供体制を整えた上で、検診受診者に通知することが望ましいとの見解が示された。しかし、自治体における乳房構成の個別通知の実施状況を調査したところ、通知を行っている自治体は約2割にとどまっていた。そのため現在、乳房構成を受診者にどのように通知するか、また通知後にどのような対応を行うかについて検討が進められている。
さらに、高濃度乳房における乳がんの発見精度を高める方法として、超音波検査を乳がん検診に取り入れる取り組みも一部の自治体で始まっている。現在、超音波検診の実施方法や実施体制を整備した上で、全国的な導入についても検討されている。
4.ブレスト・アウェアネス
乳がん検診の不利益の一つに、検診を受けていてもすべての乳がんを発見できるわけではない「偽陰性」という限界がある。このような検診の限界を補うため、従来の自己検診に代わって推奨されているのが「ブレスト・アウェアネス」である。ブレスト・アウェアネスは1990年代に英国で提唱された考え方で、日本では「乳房を意識した生活習慣」と表現されている。日常生活の中で、普段から自分の乳房の状態を知り、変化に気付いたら早めに医療機関を受診することがブレスト・アウェアネスの基本となる。
ブレスト・アウェアネスを実践する上で重要なポイントは、次の4つである。
①自分の乳房の状態を知る
まず、自分の乳房が普段どのような状態なのかを知ることが大切である。日常生活の中で、乳房の大きさや硬さ、月経周期に伴う変化などを意識し、普段の状態を理解しておくことが第一歩となる。
②乳房の変化に気を付ける
異常を探そうとするのではなく、普段の生活では気付かなかった変化がないかを意識することが重要である。特に注意したい変化として、しこり、血性の乳頭分泌、乳頭・乳輪部のただれ、皮膚のへこみなどが挙げられる。
③変化に気付いたら、すぐに医師に相談する
乳房に変化を感じた場合は、次回の検診まで待ったり、自己判断で様子を見たりせず、早めに医療機関を受診することが重要である。このような早期の受診行動は、乳がん検診で見つけられなかった乳がんへの対策になるだけでなく、若い年代に発症する乳腺疾患を早期に診断し、治療につなげるためにも有用である。
④40歳になったら、2年に1回乳がん検診を受ける
40歳になったら、科学的な根拠があるマンモグラフィ検診を2年に1回受けることが重要である。また、検診で要精密検査となった場合には、必ず精密検査を受けることも大切である。
このように、ブレスト・アウェアネスとは、日頃から自分の乳房に関心を持ち、普段の状態を知っておくこと、そして変化に気付いたときには早めに医療機関を受診することである。
今後、乳がんによる死亡をさらに減らすためには、乳がん検診の受診率を高めること、検診の精度を向上させること、そしてブレスト・アウェアネスを広く普及させることが重要な課題となる。
(研究部長・医科 竹尾健)